購買履歴の収集だけなら、ポイントカードを発行すれば可能です。クーポンの配信だけならメールアドレスが分かれば可能です。しかし、顧客側からみるとポイントカードが増えると持ち運びや管理が面倒ですし、クーポンを印刷する形式では、わざわざ印刷する手間がかかります。その顧客側のネックを解消するのが携帯電話です。

 さらに「おサイフケータイ」であれば、支払いも携帯電話で済ませることができますので、携帯一台で購買履歴の収集、クーポンの配信、商品の注文、料金決済まですべてが完了できます。

 このようにマクドナルドのOne to Oneマーケティングを実現化するためには、携帯電話を利用することが不可欠だったのでNTTドコモがパートナーに選ばれたのでしょう。

マス・マーケティングが市場シェアを伸ばす戦略なら
One to Oneマーケティングは、顧客シェアを伸ばす戦略

 この“One to Oneマーケティング”のコンセプトを提唱したのはアメリカのマーケティングコンサルタントのドン・ペパーズとマーサ・ロジャーズです。1993年に発刊された二人の著書「The One to One Future」(邦題:『ONE to ONEマーケティング』)でこの手法が紹介され、新しいマーケティング理論として注目を集めるようになりました。

 ペパーズとロジャーズは、著書の中で従来のマス・マーケティングとOne to Oneマーケティングの違いやOne to Oneの効果を、花屋を例にして次のように説明しています。

 市場の全消費者から10%ずつのシェアを得ている店と、全市場の10%の消費者からそれぞれ100%のシェアを占めている店と、どちらの花屋が手堅い商売をしていると言えるであろうか? この二つを比較したとき、顧客が価格競争や広告キャンペーンの影響を受けやすいのはどちらだろうか? マーケティングや広告、販売のための経費を削減しやすいのは? さらに景気動向に左右されやすいのはどちらなのだろうか?

 従来のマス・マーケティングでは、“市場シェア”の拡大に重点を置きます。それに対して、One to Oneマーケティングでは“顧客シェア”の拡大に重点を置きます。顧客シェアとは、一人ひとりの顧客が同じカテゴリーの商品を購入する総額の中で、自社商品を購入する割合です。

 マクドナルドでいえば、一人の顧客が外食で使う総額の中で自社の商品の購入金額が顧客シェアにあたります。