その「酒の乱」が始まったのは、韓国人軍団と日本人軍団で安くてうまい韓国料理屋で仲良く焼き肉を食べていた時だった

 あの夜のことは、本当によく覚えていない。

 誰が言ったのかまったく覚えていないが、誰かが「で、お前の国と、俺の国、どっちが酒強いんだ?」という子どものようなことを、また言いだしたわけだ。

 皆の間に一瞬緊張が走ったが、その言葉が一度発せられたら、もう止められない。

 誰も止めることはできない。

 すぐにレストランは合戦の場となり、両軍は本当に多くの酒を飲み下していった。

 普段はどこの国と飲んでも楽勝な僕達日本人軍団も苦戦をしいれられた。

 さすがに韓国。滅茶苦茶お酒が強い。

 そして、途中で気がついたが、とりわけお酒が超強い奴がいた。

 PJいうニューヨーク出身のスーパー韓国人だった。

 この男は本当にザルだった。

 まったく酔わない。

 次第に僕達日本人の不利な展開となっていった。

 ついに、日本人軍団の中の「宴会担当」の営業出身の僕ら4人はつぶれ、「頭脳担当」の、そのベストセラー著書『入社一年目の教科書』で「宴会芸は死ぬ気でやれ」と書いている岩瀬大輔や他の東大出身の同級生達も投入したが焼け石に水だった。

 最後はPJを除く全員がしこたま潰れてしまっていた。

 完敗だった。

 僕ら日本人留学生は酔っ払い意識朦朧のなか、タクシーで帰ったが、その途中、ひとりが、突然タクシーから降りてどこかに走って行方不明になってしまう事件がおきた。彼は病院に収容されたようで、なぜか翌朝、病院に彼を迎えに行った僕は、痛い「負け」をかみしめていたのだ。

 そのあと韓国人の彼らとは何度も食事をしお酒を飲んだ。だが、あの、あまりにも壮絶な戦いを思い出し、どちらも「仕掛ける」ことはなく、穏やかに僕達は卒業していった。