日本人に脈々と流れる「余裕がなくても助ける」精神

 よく知られている日本の民話に「笠地蔵」という話があります。

 貧しいけれども心の優しい老夫婦が、正月に食べる餅を買うために笠を五つ作り、おじいさんが町に売りに出かけます。

 激しい雪が降り続ける町までの道中、おじいさんは雪をかぶった六つの地蔵に出会います。地蔵の哀れな姿を見過ごすことができないおじいさんは、売りものの五つの笠と自分の笠を地蔵にかぶせ、何も持たずに来た道を引き返していきます。

 家に戻ったおじいさんは、ありのままをおばあさんに話して聞かせます。おばあさんは怒るどころか、おじいさんの行為を笑顔で褒めるのです。

 その後、おじいさんに感謝した地蔵が餅を持ってくる「最後には報われる」というラストにつながっていきます。ただ、おじいさんは見返りを期待して地蔵に笠をかけたわけではないので、この物語の要諦は貧しい弱者がもっと困っている弱者に手を差し伸べるという話と考えていいと思います。

 現代の日本にも、似たような話があります。

 1991年にロンドンで創刊された、ホームレスの自立を支援する「ビッグイシュー」という雑誌が、2003年9月に日本に上陸しました。

 1冊140円で仕入れて300円で売り、160円の利益を得るという仕組みで、日本でもホームレスの自立支援が始まっています。

 この雑誌を制作している「ビッグイシュー日本」という組織のスタッフによると、ホームレスから雑誌を買ってくるのは、圧倒的に主婦が多いそうです。ただ、主婦といってもお金持ちのマダム然とした人ではなく、それほど余裕があるようには見えない普通のおばさんだというのです。

 なかには、友だちに売るからと10冊まとめて買う人、顔馴染みになったホームレスに「これ食べて!」といって食べものを渡す人もいるといいます。

 余裕があるから他者を支援するという考え方ではなく、余裕のあるなしにかかわらず同じ生活者として他者を助ける。日本人には、多くの欧米人とは異なるそうした資質が、以前から根づいているように感じられます。