田巻 一彦

[東京 29日 ロイター] - 先進国で今、起きている現象で注目されているのは、過去の好況期と比べ上昇率が鈍い長期金利と物価の行方だ。一部で資本主義の限界説も指摘されているが、世界中に広がっている閉塞感は、人工知能(AI)の開発・導入が進めば、一掃される可能性がある。AIは「指数関数的」に発達することが見込まれるためだ。AI導入で後れを取る日本は「大過渡期」の最中にいるとみれば、今後の展開も全く違って見えるに違いない。

<社会を変えるAI>

将棋界に旋風を巻き起こし、30年ぶりの連勝記録を更新した藤井聡太四段。国内メディアの報道によれば、AIソフトを積極的に活用し、藤井四段とAIソフトの指し手の一致率が高いという。

AIというと、将棋、囲碁、チェスなどの盤上ゲームで、プロを撃破することで注目を集めることが多いが、いずれ社会を大きく変える原動力になると思われる。

AIが人間社会を劇的に変えると主張しているレイ・カーツワイル氏は、情報技術の進歩は「指数関数的に進む」(人類の未来、NHK出版新書)と指摘している。

例えば、今年は猛暑になりそうだとの気象庁の3カ月予想を受け、焼酎メーカーが「酎ハイ」などの増産態勢に入っているという。ただ、3カ月予想が外れた場合、メーカーは相応の損失を出すことになる。

将来、気象の予測に関する膨大な情報がインプットできるようになれば、その情報をAIが解析し、気象庁ではなく、焼酎メーカーが猛暑になるのかどうかを予測。より精度の高い予測結果に基づいて、最適な生産量を弾き出し、営業利益を最大化させることが可能になる。

<出遅れが歴然の日本企業>

だが、日本の企業社会では、AIはまだ、「近未来」小説の中の出来事であるようだ。2016年9月28日─10月12日に実施した10月ロイター企業調査によると、調査対象の400社(資本金10億円以上)のうち、AIやIoT(モノのインターネット)導入を全く検討していないとの回答が40%に達した。

AIをどのように活用すれば、現実のビジネスに生かせるのか、具体的なイメージが思い浮かばない企業が多いようだ。

実際、企業だけでなく、政府サイドも第4次産業革命の推進をうたいながら、最新の成長戦略では、最も重視されるべき技術者が不足していることや、その不足をどのように補って対応していくべきか、全く言及がなかった。「仏造って魂入れず」と表現したくなるようなチグハグさを露呈している。

ただ、この分野で先行している米国などで、具体的なAI活用術をみれば、急速にキャッチアップする可能性があるのも、日本の企業社会の特徴だと考える。直近のデータで、国内企業の設備投資は年初の想定よりも堅調で、人手不足に対応した自動化投資が動き出したとの見方もある。

AI投資の本格化を前にした「大過渡期」と呼べる局面に立ち至ったのではないだろうか。

<先手必勝、書き換え可能な業界地図>

東芝<6502.T>の半導体子会社売却の過程を見ていると、半導体をめぐる日本勢の「凋落」をあらためて実感せざるを得ない。韓国のサムスン電子<005930.KS>を直ちに追撃できる体力を持ち合わせていないのは明らかだ。

だが、AI時代の本格的な到来を予知して、先行投資するのは可能なはずだ。AIの普及に伴って、データのやり取りのキーとなるクラウドの重要性が一段と増大するとみられ、今から官民一体となって工程表の作成や具体的な目標の数値化などで、多くの人々が現実に認知し、実感できるような未来像を描いて行くべきだ。

AI時代の本格的なスタートによって、ある時点で生産性が非連続的に上昇する局面が到来すると予想する。その時には、世の中を覆っている閉塞感が破られることになるだろう。

同時に今は数値化が難しく、人間の判断によるしかなかった事柄についても、どの選択が最も有効なのか、AIが答えを出す時が来ると考える。

例えば、ある企業や機関が公表してこなかったスキャンダルについて、一部で事実と異なって報道された場合、どのような手法で対応するのが、ダメージを最小化できるのかといったことにも、答えが出てくるようになるだろう。

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