東日本大震災が発生してから、4ヵ月が過ぎた。今回の大震災は我々に多くの教訓を残した。三菱総合研究所では、この震災により我々の価値観がどのように変化したかを調査しているが、これからどのような国を創るべきかを議論するときに、震災直後の衝撃を受けた状況での価値観だけを基にすることは、中長期的視点から見ると問題がある。そこで、「新たな国の形を求めて」というテーマで、2回にわって考えを述べてみたい。

 まず、第1回目はここ5年間にわたり実施してきた「豊かさ論」研究の視点での求めるべき社会像を示す。第2回は、今回の震災によって明らかになった課題に対する視点も交えてこの問題を論じてみたい。

なぜ「豊かさ」を研究対象としたか

 現在の日本には、複数の政策課題が存在している。このような状況では、ある課題への対応策が、別の課題を派生させるということが起きてくる。また、課題ごとの部分最適解の集合が、全体最適には繋がらない場合も多くなり、さらには、限られた資源下では課題ごとの最適解の実施自体も難しい場合がある。

 このような状況下では、目指す社会像を明確にして国民の間で共有することにより、政策のベクトルをそろえることが重要である。

 三菱総研では、2004年の政策創発研究において、この社会像の目標指標として「豊かさ」という概念を設定した。この研究は21世紀の日本の「豊かさ」の価値観を問うことが主な命題であり、豊かさを構成する要素(以下、「豊かさ要素」という)から検討を始めた。

 さらに、豊かさという広義の概念自体は多くから支持されるものと思われるが、すでに定量データが存在する各種の指標(例えばGDPなど)を組み合わせて、豊かさを表現しようとすると、真に国民が感じている豊かさの実態が見えなくなるおそれがある。そのため、その価値を測定するにあたっては、豊かさ要素に沿って直接的にアンケートを実施して国民に問うこととした。