麻倉怜士のハイレゾ

 評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめの曲には「特薦」「推薦」のマークもつけています。e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!

『Clasico [クラシコ]』
沖 仁

特薦ロゴ

 驚異のテクニシャン・ギタリスト、沖仁の約4年ぶりのスタジオ・セッション・アルバム。ゲストは葉加瀬太郎。オリジナル曲「Tierra [ティエラ] ~大地行進曲~」を核にジャズ・スタンダード「Someone to watch over me」、チック・コリアの「Spain」、映画音楽「禁じられた遊び」「ロミオとジュリエット」などカヴァー曲で固める。制作期間、4年を掛けた大作だ。

 1曲目「SPAIN」。冒頭は葉加瀬のやさしいバイオリンで始まり、ソロギターになると一転、スペインの濃密な空気感に包まれる。アランフェス協奏曲の第2楽章のメロディが登場し、オーボエの旋律がヴァイオリンで奏される。チェロも加わり、いつも聴いているオーケスト版ラとは違う、明瞭な楽器感の存在が新鮮だ。ギターもロドリーゴのスコアそのものではなく、いかにもスペイン風なフラメンコ的な和声感と切れ味で聴かせる。2曲目「マドリードの花市場」は、躍動的な踊りの音楽とメローなヴァイオリンの音色が嬉しい。

 「禁じられた遊び」「SOMEONE TO WATCH OVER ME」などのスタンダードカヴァーも意外なアーティキュレーションでとても素敵。

 録音はひじょうにクリヤー。音像はギターが最大で、二つのスピーカーを睥睨するように拡がる。

FLAC:96kHz/24bit
VICTOR STUDIO HD-Sound、e-onkyo music

『Truth, Liberty & Soul』
Jaco Pastorius

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 偉大なるベース・プレーヤー、ジャコ・パストリアス (Jaco Pastorius、1951年12月1日 - 1987年9月21日) の「ワード・オブ・マウス・ビッグ・バンド」時代の発掘ハイレゾだ。逝去後30年にして発見された、貴重な放送音源である。1982年6月27日のニューヨークはジョージ・ウエインズ、クール・ジャズ・フェスティヴァルにおける、アヴェリー・フィッシャーホールでの1曲目のInvitationから14曲目のFannie Maeまでの当日のセットリスト、全14曲、130分以上の演奏の全てが収録されている。

オリジナル24チャンネルのアナログ音源を、カナダの2xHDレーベルが独自のハイレゾ処理方式、Fusion ProcessにてWAV 96kHz/24bit、WAV 192kHz/24bit、flac 96kHz/24bit、flac 192kHz/24bit、DSF 2.8MHz/1bit、DSF 5.6MHz/1bit、DSF 11.2MHz/1bitに変換している。2xHDは音質に徹底的にこだわるレーベル。本ファイルのように多数のデジタルオプションを提供するのは、ノルウエーの2Lか日本のウナマスレーベルぐらいのものだろう。

 まずflac 192kHz/24bitで聴く。ストレートな音の噴出感、躍動的なライブ感はこれほど古い録音だとは信じられないクオリティの高さ。。192kHz/24bitは音像から音が飛び出す感覚であり、DSD11.2MHzは、ひじょうにリッチな会場の空気感が特徴だ。それも七色に着色された感覚だ。演奏自体は、もちろん音像から直接に音が噴出しているのだが、同時にアンビエントがカラフルに色づけされていくことが、眼前のドキュメンタリーとして耳で確認できる。ソノリティが濃く、音色は暖色系。密度感が高い会場の空気感が愉しい。

WAV:96kHz/24bit、192kHz/24bit
FLAC:96kHz/24bit、192kHz/24bit
DSF:2.8MHz/1bit、5.6MHz/1bit、11.2MHz/1bit
2xHD、e-onkyo music

『Chuck』
チャック・ベリー

特薦ロゴ

 2017年3月18日に逝去した、ロックンロールのオリジネーター、チャック・ベリーの最後の新盤。通算20枚目のスタジオ・アルバムだ。10曲うち8曲はベリーが作詞・作曲した新曲。残り2曲はスタンダード・ソング。彼の本拠地のセントルイスのスタジオで録音された。パーソネルは一家を中心に固めている。

 凄い。彼の古典的なロックンロールの歌唱や、粘っこく、ダックウォークなギターサウンドはそのままで、音がもの凄くクリヤーで、力強い。過去の録音をリマスターしたのではなく、完全な新作だから、最新の音がする。思わず踊り出したくなるような、挑発的なチャック節はまったく変わらず、音だけが最新になっている不思議さ。2曲目の先行シングル「ビッグ・ボーイズ」のリフはまるで「ジョーニー・B・グッド」。歌唱の雰囲気もそっくり。6曲目の、名曲「ジョニー・B.グッド」の続編「レディ・グッド」は、さらにそっくり度が高まる。懐かしくも、まるで新鮮。

FLAC:44.1kHz/24bit
Decca、e-onkyo music

『3-D The Catalogue』
Kraftwerk

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 ドイツのテクノ・バンド、クラフトワークがMoMA(ニューヨーク)、テート・モダン・タービンホール(ロンドン)、フォンダシオン・ルイ・ヴィトン(パリ)……など世界各地で展開した3Dライブの音源集だ。パッケージもブルーレイ、アナログLPレコード、CD、ハイレゾと、マルチ展開。

 冒頭のAutobahn (3-D)を聴く。テクノの音響とリズムが快感的で体に染みいる。本来は立体のイマーシブ音響の音源だが、それをダウンミックスした2チャンネルで聴いていても、立体的音場の雰囲気を色濃く感られるのが不思議。ステレオ音場の横と奥の広がりが深く、リズム、ベース、シンセの歯切れがたいへんシャープだ。ハイレゾは、音の進行に透明な切れ味を与え、音の剛性感が高い。YMO的なピコピコサウンドは現代作品として、意外に新鮮だ。音場に隙間無く、緻密に音が充填されている。新鮮!

FLAC:44.1kHz/24bit
Parlophone、e-onkyo music

『Kimiko sings HIBARI~伊藤君子、美空ひばりを歌う(96kHz/24bit)』
伊藤君子

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 美空ひばりのオリジナル曲と愛唱していたスタンダードナンバーのカヴァー集。あまりジャズ調にアレンジするのではなく、原曲の雰囲気を活かした編曲と歌唱だ。美空の演歌的な部分を省き、伊藤君子の音楽的なテクスチャーに添った、快唱だ。音もハイレゾ的なクリヤーでワイドレンジなものではなく、昭和風の中域中心のナローレンジで、音の立ち上がり下がりも俊敏ではない。良い意味での鈍さと甘さが昭和している。意図的な音作りの意図が伺える。バックのビックバンドも細部はよくわからないが、音の塊感は、本アルバムのコンセプトにとても合う。

WAV:96kHz/24bit、FLAC:96kHz/24bit
日本コロムビア、e-onkyo music

『Pure3 Feel Classics -Naoya Shimokawa-』

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 下川直哉のゲーム、アニメ音楽の弦楽四重奏版を初めとしたクラシカルな楽器編成版だ。これぞ、現代最先端のハイレゾだ。伊藤君子のアルバムの次ぎに聴くと、昔を訪問していたタイムマシンが一挙に現代に戻ったような気分になる。一曲目、Feeling Heartは弦楽四重奏。ひじょうにクリヤーで、ワイドレンジ、音の立ち上がり、下がりが明瞭、明確な、まさに絵で描いたようなハイレゾリーションだ。3曲目「ありがとう」はピアノとチェロ。ピアノの打鍵感が確実で、チェロの朗々とした響きの透明感も格別だ。どちらの楽器も音像の輪郭が明確で、像自体も大きい。

WAV:96kHz/24bit、FLAC:96kHz/24bit、DSF:2.8MHz/1bit
FIX Records、e-onkyo music

『ドラマティック・ブラームス』
千住真理子, 丸山滋

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 大賀ホールで収録された作品をこれまで多数、聴いているが、プロデュースや録音の方針によって、音調が大きく異なるのが、面白い。南紫音のピアノアルバムは、ロマンティックさをこのホールならではソノリティの豊かさ、グロッシーさで音表現していた。ウナマスの一連の大賀アルバムは、ひじょうに透明で、解像度の高さが聴けた。では千住/丸山コンビのブラームスはどうか。ホールの間接音の豊かさを強調するのではなく、ひじょうにしっかりと音像を近接で描き、ブラームスの峻厳で暖かな世界を表出している。艶は意外に少なく、ドライでストレートな響きの質が特徴だ。2017年3月28-30日、軽井沢大賀ホールでセッション録音。

FLAC:96kHz/24bit
UCJ Japan、e-onkyo music

『Is This The Life We Really Want?』
Roger Waters

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 ロジャー・ウォーターズの『死滅遊戯』(1992年)以来25年ぶりのニュー・アルバム。彼のBlu-ray Disc作品TheWallは、圧倒的な高画質とDolby Atmosのイマーシブサラウンドにて、私の映像イベントの定番だ。

 1曲目When We Were Young。冒頭のぼけたナローレンジ音から、徐々に鮮鋭感、解像感が上がり、明瞭にワイドレンジな語りになり、アコースティックギターが加わり、ついにはロジャーの歌が出現する。冒頭のボケとの対比が鮮やかで、低音の偉容感、安定感をベースにピアノ、ストリングスが主張し、ロジャーの力強いヴォーカル音は、音楽の剛性感をいやが上にも高める。爆発音、ジェット音やサウンドイフェクトが効果的に使われている。ナレーションを初めさまざまなSEがクリヤーに聴けるのは、ロジャーの典型的な作風だ。

FLAC:48kHz/24bit
Columbia、e-onkyo music

『LOVE SONGS BEST』
坂本冬美

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 坂本冬美のカバーアルバムシリーズ「LOVE」シリーズからのベスト集。典型的な歌謡曲音調。主役は圧倒的にヴォーカルだ。センターに定位した音像がものすごく大きく、肉付きが豊潤。音の粒子がそのなかにぎっしりとつめ込められている印象も。イコライジングでは中域が強調され、艶艶としている。オーケストラもきらきら煌めく、まさに邦楽的なブリリアントなサウンドだ。ハイレゾは、歌謡曲的なキャラクターの特徴をさらにブーストする方向に働くようだ。名曲「オリビアを聴きながら」は粘性が高く、こぶしも聴ける坂本節。

FLAC:48kHz/24bit
Universal Music、e-onkyo music

1/7レコーディング・ライブ『しょうことスタインウエイのお正月』
鈴木祥子

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 銀座・音響ハウスでのDSD11.2Hz録音。ひじょうにクリヤーで、中味が詰まった音だ。タイトルにもあるスタインウエイが実に堂々と音を発し、倍音を豊かに放出している様子を、11.2Hzは余すところなくとらえている。ヴォーカルの実体感も充実しているが、リニアPCMの場合のように、ストレートにヴォーカルの音が飛んで来るというより、ヒューマンなフィルターを通過させて、濃密な空気感を纏って、スピーカーから発音させる印象だ。DSDのもともとの特質は2.8MHzからも感じていたが、11.2MHzでは、音の情報量が圧倒的に増えたなかでも、そんなDSDのヒューマンライクな音調は変わらないのが嬉しい。2017年1月7日、音響ハウス第一スタジオでのレコーディング・ライブ。

WAV:96kHz/24bit、FLAC:96kHz/24bit
DSF:11.2MHz/1bit
BEARFOREST、e-onkyo music