Kanupriya Kapoor

[マラウィ(フィリピン) 1日 ロイター] - 板でバリケードを張った2階建て住宅のバルコニーに大の字に寝そべり、板に空けた穴からライフルの銃身をのぞかせると、フィリピン軍の狙撃手は、撃つ前に静粛にするよう求めてきた。

「(今から)撃つ」と彼が冷静に言うと、50口径ライフルの銃声が響き、家中にこだました。彼は、同国南部ミンダナオ島のマラウィ市を5週間にわたり占拠しているイスラム武装勢力のアジトと見られる、1キロも離れていない住宅を狙ってるのだ。

隣には、射弾の観測や修正を担当する観測手が座り、別の穴から狙いを見定めていた。狙撃手は静かな声で言葉を交わしながら、アグス川を挟んだ対岸にあるマラウィの商業地区目がけてさらに3発の銃弾を撃ちこんだ。

武装勢力が占拠する対岸は、破壊された建物のがれきが散乱する戦闘地区になっている。そこには、たくさんの死体が腐敗しており、悪臭が火薬の臭いと入り混じっている。

過激派組織「イスラム国(IS)」に忠誠を誓う武装勢力による5月23日の電撃攻撃で占拠されたマラウィ市を奪還するため、数千のフィリピン軍兵士が戦っている。

フィリピン南部は過去数十年の間、武装勢力による反乱や、山賊行為に苦しんできた。だが、マラウィでの激しい戦闘、そして地元武装勢力と肩を並べて戦うインドネシアやマレーシア、イエメン、チェチェン出身のIS戦闘員の存在は、同組織がイラクやシリアで足場を失いつつあるなか、この地域が東南アジアにおける拠点となりつつあるとの懸念を生んでいる。

占拠を封じ込めるためにフィリピン軍が送り込まれたが、進展が緩やかで、困難かつ慣れない市街戦になるとは、誰も予期していなかった。

「われわれは、反乱には慣れている。だがこのような規模での展開やこの種の紛争は、われわれの部隊にとっては試練だ」。マラウィでの作戦指揮官の1人、クリストファー・タンプス中佐はそう語った。

マラウィ制圧作戦は、武装勢力が仕掛けた手りゅう弾が仕込まれたガスタンクなどの偽装爆弾に手こずっていると同中佐は言う。

<がれきの山に>

湖のほとりにある人口20万人のマラウィ市は、数週間にわたる軍の空爆や爆撃により、ゴーストタウンと化した。市の中心部には、黒焦げのがれきや、建物の骨組みしか残っていない。武装勢力が支配する地区の建物はまだ残っているものの、住民は脱出し、人けはない。

フィリピン当局は、16歳の少年を含む100─120人の戦闘員が、市街地の商業地区に立てこもっているとみている。当初は500人程度だった。

軍によると、武装勢力は100人ほどの人質を取り、人間の盾として利用したり、戦闘に参加させたり、性的奴隷として扱っている。

軍用機は、毎日のように武装勢力の支配地区を爆撃している。町の外側からは、迫撃砲の部隊が、今回の紛争の中心である「グラウンド・ゼロ」と呼ぶ地域に照準を定める。

「迫撃砲は、空爆に比べて、人や小さなエリアを標的にするのに向いている」と、迫撃砲を専門にするジェフリー・ベイバヤン伍長は、前線の観察兵から途切れがちな無線で伝えられる座標をメモしながら言った。

「標的を正確に狙うのは難しい時もあり、標的に当たらず弾を無駄にすることもある。敵の地域に近い場所にいるわれわれの兵士も心配だ」と、伍長は言う。迫撃砲が街中で爆発し、真っ黒な煙が上がった。

<降伏か死か>

この日の戦闘で、タンプス中佐は、戦闘地区に数週間も閉じ込められていた市民3人が、脱出を試みているとの報告を受けた。何人かの兵士が救出に向かうことになり、狙撃を避けるため、二手に分かれて道の両端を移動して行った。

救出された男性2人と、杖をついた女性1人は、軍が支配する地区まで逃れると、道の端に座り込んだ。

「両側からひっきりなしに爆弾が放たれた」と、キリスト教徒のホセ・ロカナスさん(53)は言った。妻と友人とともに、自宅に閉じ込められていたという。「われわれは、板挟みにされてしまった」

軍によると、彼らの親戚から3人が閉じ込められているとの情報があり、救出に成功したという。

マラウィでは、判明しているだけで武装勢力の戦闘員300人以上、治安部隊の兵士82人、市民44人の計400人以上が死亡した。

市民の遺体の中には、頭部が切断されたものもあり、軍の前進ととともに、武装勢力による「蛮行」によって殺害される市民数が急激に増えることを、軍は警戒している。

フィリピン軍側は連日、武装勢力に対し「いますぐ降伏するか、死ぬかだ」と、拡声器で呼びかけている。紛争地区に閉じ込められた市民に対しては、救助を申し出ている。

当局側は、武装勢力の弾薬や補給がつきかけているとみているが、マラウィ奪還に期限はないとしている。

タンプス中佐は、マラウィに援軍が投入された時、死者数の多さに当初、危惧の念を抱いたという。「だが来てしまえば、規律が効いて、集中するようになった」と語った。

(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)