[東京 5日 ロイター] - じりじりと円安が進んでいる。「正常化」を急ぐ米連邦準備理事会(FRB)だけでなく、欧州中央銀行(ECB)などもタカ派寄りにスタンスを変えてきたとの思惑が浮上。一方、日銀は超緩和政策を当面維持するとの見方から、中銀スタンスの違いを背景とした円売りが強まっている。ただ、思惑先行の面も強く、日本以外の外的要因の比重が高い円安の構図の下では、外的要因の変動で相場の方向性が急変するリスクも一部で意識されている。

<欧州要人発言で思惑先行>

円安の勢いが増したのは、欧州での要人発言がきっかけだ。6月27日にECBのドラギ総裁が欧州の景気回復が強まっているとしたうえで「デフレの脅威は過ぎ去り、リフレの力が及んでいる」と発言。イングランド銀行(BOE)のカーニー総裁も景気動向次第という条件付きながら、今後数カ月以内に利上げを協議するとした。

ただ、ユーロ圏のインフレ率は上昇傾向を示してきたが、安定的に2%付近という状態ではない。欧州では、女性と高齢者の労働参加率が高まっており、総賃金が上がりにくいという構造的な問題もある。ユーロ圏は失業率が10%程度と日米より高く、需給ギャップも供給超過で物価を押し下げる要因になっている。

みずほ銀行・チーフマーケット・エコノミスト、唐鎌大輔氏は、ユーロ/ドル<EUR=EBS>が1.15ドル付近で安定した場合、1年後のユーロ圏消費者物価指数(HICP)は0.3%ポイント程度押し下げると試算。ECBが見込む2018年のHICPは1.6%だが、「目標達成が難しい中で、ユーロ高による下押し圧力が加わることをECBは容認したくないだろう」とみている。

バークレイズ証券・シニア債券・為替ストラテジスト、門田真一郎氏は来年にはECBが量的緩和の縮小に向かう可能性が高いとみるが、「ECBは、ダウンサイドリスクが後退して追加利下げをしないとのスタンスを示したが、それ以上のことは言っていない。BOEも、去年実施した利下げを取り消すとしても、その先もどんどん利上げするとは言っていない」として、市場の思惑は先行し過ぎではないかとする。

ロイターは3日、複数の関係筋の話として、ECBの一部当局者らは、理事会の声明にある「インフレ目標達成に向け必要に応じて債券買い入れプログラムの拡大もしくは延長を行う」との文言について、今月20日の理事会での文言削除に慎重になっていると報じている。

<日銀はすでにテーパリング開始との見方>

実際にテーパリングを開始しているのは、日銀の方だ──。バークレイズ証券の門田氏はこう指摘する。「米国が実際に利上げし、日銀が実質的にテーパリングを始めているのに対し、ECBやBOE(イングランド銀行、英中央銀行)の政策変更は、まだ思惑の段階に過ぎない」とする。

日銀は国債買い入れ「年間約80兆円めど」に保有残高を増加させる方針を崩してはいないが、長短金利を操作目標にするイールドカーブ・コントロール(YCC)政策の下で買い入れペースは鈍化している。

6月の国債買い入れ額は前年比で68.8兆円と2015年3月末以来の70兆円割れとなった。80兆円目標は「程度」とされ、ある程度のレンジをもっているとはいえ、「誤差というにはかい離が大きい」と、みずほ証券・シニアマーケットアナリスト、松永哲也氏は指摘している。

日本の物価上昇の勢いが最も弱く、日銀が「出口」から最も遠いというのが市場のコンセンサス。ただ、市場関係者の一部には、政策の柔軟化という意味ではECBよりも日銀が先行しているとの声がある。

<豪中銀のタカ派期待は肩透かし>

足元では、金融政策の方向性の差から、円は、ドル、ユーロ、ポンドを含む主要4通貨の中で最弱との見方が強い。

ドル/円<JPY=EBS>は、北朝鮮のミサイル実験を受けてリスク回避の円買いが出ても、下落幅は限定的で底堅さをみせた。目先の上値の重さは意識されるが「中長期的に円を売りたい人は増えている。ドル/円が下がれば買い手が出てくる」(国内金融機関)という。

とはいえ、ドル/円の上昇には、外的な要因の比重が高いと外為どっとコム総研・調査部長、神田卓也氏は指摘する。「ドラギ発言以降は米金利高に連れ高しているが、米金利は欧州金利高に連れた側面が大きい。市場はその持続力にまだ懐疑的だ」という。

6月ISM製造業景気指数はよかったが、最近の米経済指標には弱いデータも少なくない。

ECB、BOE、カナダ中銀に次いでタカ派転向の思惑が一部で浮上していたオーストラリア準備銀行(RBA、中央銀行)は4日、政策金利のオフィシャルキャッシュレートを大方の予想通り据え置き、経済や金利見通しに中立な姿勢を示した。

「豪ドルのタカ派期待が肩透かしとなって、前のめりな中銀ストーリーは修正されつつある」(別の邦銀)との声も聞かれる。

弱い米経済指標、ECB高官のハト派発言、日銀幹部の強気な発言などが出れば、市場の思惑が大きく揺り戻されるリスクには注意が必要だ。

(平田紀之 編集:伊賀大記)