銀行の自己資本比率規制の現状と課題

 銀行の自己資本比率規制は、バーゼル銀行監督委員会が統一基準を決め、各国当局が細目を定めることになっている。現在は「バーゼルⅡ」と呼ばれる自己資本比率規制が適用されているが、2013年から2019年にかけて、より厳格化された自己資本比率規制である「バーゼルⅢ」が段階的に導入されることが決まっている。その大きな理由の一つは、2008年のリーマンショックにおいて、世界の金融機関が甚大な損失を計上し、世界経済を揺るがせてしまったことにある。今回は、この自己資本比率規制の厳格化の影響について、専門用語を極力使わず、産業金融面から、なるべく平易に考察してみたい。

 現在の自己資本比率規制は、簡単に言えば「銀行が取るリスク量を自己資本の範囲に抑える」というものである。銀行が取るリスクには、大別して、信用リスク・市場リスク・オペレーショナルリスクの3つがあるが、事業の性格上、一番大きなウエイトを占めるのは信用リスクである。この信用リスクと市場リスクは、統計学的に言えば、「一定の(例えば99.9%の)信頼区間を前提にした場合に理論的に最大となる損失の額(これを「潜在損失」という)」を計算するものである。逆に言えば、先の例では、「潜在損失を超える損失が発生する確率は0.01%」ということである。ただし、こうした複雑な計算をするためのデータがない銀行は、信用リスクの計測については「標準的手法」と呼ばれる簡便な計算方法も認められている。

 現在、国際的な業務を行なっている大手行には、自己資本比率が8%以上であることが求められている。これは、分子に「自己資本(引当金等調整後)」、分母に「銀行が取るリスク量を12.5倍した“リスクアセット”」を持ってきて計算するものである。下の式の両辺に右辺の分母を掛けると、先述の通り、「銀行が取るリスク量を自己資本の範囲に抑える」という式になることがわかるだろう。

「バーゼルⅢ」後の銀行は企業を救えるか <br />――根本から問い直される日本の産業金融

 このように、銀行の自己資本比率規制は現在でもそれなりに厳格なものである。しかし、リーマンショックの時には、幾つかの想定外の事態が起きた。例えば、過剰なレバレッジ(借入)に依存した資産の積み上げは、資産価格が下落した時に一気にその撒き直しの動きに繋がり、不安定の度合いを増した。また、好況の時に気前良く配当や賞与を支払っていた反面、一気に経済が落ち込んだ際には資金繰りに窮するような事態も起きた。また、資本の質や、いざという時の流動性の問題にも直面した。これらは、バーゼルⅢにおいて対応が強化されることになったのである。