天国の高杉晋作は、菅直人首相に対して激怒しているのではないか。最近私はそう感じている。

 菅首相は就任当初、自らの内閣を「奇兵隊内閣」と公言した。奇兵隊を創設した初代総督は高杉晋作だから、自分が高杉になったつもりなのだろう。

 私もかなりの高杉ファンだが、どう見ても首相と高杉には大きな違いがある。資質、能力、性格からむしろ高杉は正反対の人物のように見える。あえて言えば、首相は高杉に敵対した赤根武人と似たところが多い。

 かねてから、首相が高杉に傾倒していることは知られていた。自分に無いところを持つ高杉に憧れて、それに一歩でも近づこうとしているのだと私は好感していた。

 だが、最近になって、彼が高杉の本質を全く理解していないこと、そして高杉から何も学んでいないことがはっきりしてきた。

地位に無欲で「場当たり」な言動なし
周囲の信頼が厚かった高杉晋作

 高杉晋作の最も顕著な性格的特性は、地位に対して徹底して無欲であったこと。藩命によって役職を与えられると素直にそれに応じたが、役割を終えるとさっさと引き下がった。

 高杉はわずか80人そこそこの手勢で功山寺で挙兵。当時幕府に屈していた長州藩の俗論党政権を打倒。長州藩を討幕路線に大転換して明治維新への道を開いた。

 彼はその実績により、藩内で最大の発言力を得たにもかかわらず役職を固持して、「あとは諸君に任せるよ」と身を引いた。

 また、高杉は、志が固いばかりか、討幕、開国の大目標に対して驚くべき一貫性を持っていて、「場当たり」な言動がなかった。

 それに、同志を大事にする性格も際立っていた。

 志に殉じた奇兵隊などの隊士のために、馬関(下関)郊外に招魂場をつくって手厚く神霊を祭った。