経営 × 人事評価

ドラッカーが考えたMBO(目標管理制度)による
人事評価・マネジメントが日本で機能しない理由
学習院大学守島基博教授インタビュー(前編)

井上佐保子
【第1回】 2017年7月19日
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MBOが「ノルマ管理ツール」となってしまった理由

――MBOは現場マネジメントのための手法であるとのことですが、「納得のいかない評価を受ける度、むしろモチベーションが下がる」など、MBOが現場マネジメントを妨げているという不満の声も耳にします。

守島教授 私は導入のされ方が間違っていたのではないかと思います。成果を測るための方法として成果主義と共に導入されたことで、MBOは多くの日本企業に定着しました。

 しかし、一番中核となっている、現場の上司と部下の間のコミュニケーションを密にし、組織の目標と個人の目標を近づけ、部下のモチベーションを高めたり、育成につなげたりしながら目標達成していくという「現場マネジメント」という部分が欠落した形で運用されてきてしまいました。上司と部下のコミュニケーションがないまま、組織の目標をブレークダウンしただけの個人目標を押しつけられれば、MBOは目標管理ツールではなく、単なるノルマ管理ツールとなってしまいます。そうなれば、不満を持つ人が多いのも当然です。

――多くの日本企業で、MBOが「ノルマ管理ツール」となってしまったのは、なぜでしょうか。

守島教授 成果主義、そしてMBOが導入された1990年代後半以降は、日本経済が大きく傷つき、リストラを余儀なくされるなど、企業に余裕がなかったということも一因かと思いますが、それだけではありません。当時は米国でもMBOを成果主義の道具のように捉えるような傾向があったことも確かです。

 ただ、私は日本企業の人事部がMBOの本質をきちんと理解しないまま、単なる人事評価手法の一つととらえて導入してしまったというのが大きいと思っています。人事制度というのは経営の方向性を従業員に伝える重要なメッセージです。そうした認識がないまま、人事部が海外の目新しい方法論だけを取り入れては、うまくいかなくなっているという例は今でも見られる傾向です。

人事評価にはコミュニケ―ションが不可欠

――今の、目標達成度によって評価を行う成果主義のやり方で、果たして公正な評価を行うことができるのでしょうか

守島教授 実は公正な人事評価というのは難しいものなのです。職能資格制度で人事評価をする場合は、その人の持っている能力、職務遂行能力によって評価が決まるので、成果を上げていても上げていなくても、高評価、高賃金を与えなくてはなりません。これは、長く働いた人ほど能力も高まると考えられていた終身雇用制度のもとでは、合理的な評価だったわけですが、差がつけにくい評価方法でもありました。

 一方、成果主義は、短期的に成果を上げた人に高評価、高賃金を与えようという考え方です。これは一見合理的で公正な評価に思えますが、必ずしもそうとも言えません。たとえば、偶然、高額発注をしてくれるお客さんが現れることもあれば、商談の大詰めを迎えたところで成約できないこともあります。本人は頑張っていなくても、偶然、人気商品を扱う部署に属していただけで成果が上がってしまう可能性もありますし、マーケット状況が悪化する可能性もあります。

 ですので、より納得感のある評価を行うには成果だけではなく、そこに至るプロセスも見なければならないし、本人の成長や努力といったものも考慮した目標の評価をする必要があります。それには、上司と部下のコミュニケーションが必要です。

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井上佐保子(いのうえ・さおこ)

1972年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒。通信社、出版社勤務を経て、2006年にフリーランスライターとして独立。企業の人材育成、人材マネジメント、キャリアなどをテーマとして、企業事例、インタビュー記事などを執筆。人事・人材育成分野の書籍ライティングも手がけている。


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