経営 × 人事評価

ドラッカーが考えたMBO(目標管理制度)による
人事評価・マネジメントが日本で機能しない理由
学習院大学守島基博教授インタビュー(前編)

井上佐保子
【第1回】 2017年7月19日
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――MBOによる人事評価の納得感を高めるためには、コミュニケーションが必要というのはどういうことですか?

守島教授 たとえば、今期は80%の達成率でB評価をつけたが、「新しい試みをしたりして頑張ったし、あと少しで新規契約が取れるところだったけどダメだった」という人がいたとします。その場合、上司は「何もせずに80%だった」という人とは違うと捉え、「頑張っていたことは知っているが、残念ながら高い評価はあげられない。でも、今回の試みはすばらしかったし、ぜひ来期も継続してがんばってほしい」というようなコミュニケーションを行って納得感を高めていかなくてはいけないはずなのです。

 そもそも評価というものは冷たいものだし、それを付けられるということは、誰でも嫌なものです。ですがその評価に至るプロセスを上司がきちんと説明してくれれば、同じ評価でも受け入れられる、ということがあります。

――確かにそうですね。説明がないと納得いきません。しかし、なぜ多くの企業ではMBOによる人事評価に不可欠なコミュニケーションが不足しているのでしょうか。

守島教授 MBOの運用が極めて形式的になってきてしまっているからではないでしょうか。目標設定の段階では、ほとんど話し合いもなく、上から一方的に目標数字、ノルマが与えられるだけになっている。中間評価の段階では、その目標の達成支援をするべきなのですが、プレイングマネジャーの上司は忙しくてほとんど話をする時間もない。評価の際も目標に50%達成したのか、100%達成したのか、といった数字だけを見て評価を下し、5分の評価面接で評価を伝えて終了、といった具合です。

 MBOによる人事評価で躓いている企業では、MBOのシステムがあるからこそ、書類上の項目を埋め、評価することだけが目的になり、かえってコミュニケーションをしなくなるという悪循環を招いているのではないでしょうか。

人事評価にはコミュニケーションが不可欠

――コミュニケーションのない目標管理が続くことにより、企業全体にはどのような悪影響がありますか。

守島教授 最大の問題は、「モチベーションの低下」と「人が育たない」ことです。コミュニケーションがないところでは、成長もないし、モチベーションも高まらず、なにより温かい職場というものは実現できません。人事評価というのは、賃金だけでなく処遇や昇進にもつながります。それらも大きくモチベーションに影響を与えますが、全員に高い給与、高いポストを与えることはできません。こうしたなかで、上司はMBOとコミュニケ―ションを通じて、細かく部下のモチベーションを管理するのです。

 また、目標管理は人材育成においてもとても重要です。人が仕事経験を通して育つのは、部下が少し高めの目標を設定し、上司がフィードバックによりその目標達成を支援し、部下が目標をクリアする、といったサイクルをくりかえすことによるものです。中長期的に人材不足が懸念される今の日本では、一部の優秀層だけを選抜して育成するのではなく、全員がそれぞれ最大のパフォーマンスをあげる「全員戦力化」が必要となります。そうなると、現場で人材育成ができない企業は生き残りが難しくなってくると思います。

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井上佐保子(いのうえ・さおこ)

1972年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒。通信社、出版社勤務を経て、2006年にフリーランスライターとして独立。企業の人材育成、人材マネジメント、キャリアなどをテーマとして、企業事例、インタビュー記事などを執筆。人事・人材育成分野の書籍ライティングも手がけている。


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