「スキル等を含めた自社の本質的なアセット(資産)」を点検し、それを基点にして、振り向ける先をちょっと「ずらす」だけで、「新たな何かを(無理に)得る」必要はなく、新しい顧客を獲得できる。それが「顧客ずらし戦略」の基本概念だ。具体的な事例から、その極意をお伝えしよう。(フィールドマネージメント代表 並木裕太)

 スキル等を含めた自社の本質的なアセット(資産)を見つめ直し、新たなビジネスを展開して、これまでとは異なる顧客をつかまえる――。

 本連載初回で私が提唱した「顧客ずらし戦略」。前回はボストン・レッドソックスの事例を通してその概念を説明しましたが、今回は弊社フィールドマネージメントのクライアントの一つでもある身近な企業をケーススタディにして、より具体的に考察してみたいと思います。

エイベックスが花火大会やラーメン女子博で見せる“顧客ずらし”の妙今年5月にエイベックスが東京・お台場で開催した未来型花火エンターテイメント「STAR ISLAND」。歌手やバンドなどのアーティストはまったく出演しない

 その企業とは、エイベックス・グループ。浜崎あゆみや倖田來未、AAA(トリプル・エー)など人気アーティストを多数抱え、1600億円超の売上(2017年3月期・連結)を誇る、言わずと知れたエンタテインメント業界の雄です。

 エイベックスのどこに「顧客ずらし戦略」があるのか?

 それを理解するためには、まず同社の歴史をひも解かねばなりません。今回は、グループ執行役員でエイベックス・エンタテインメント代表取締役社長、黒岩克巳氏に取材協力していただきました。

エイベックス本体が
マネジメント機能を持つ意味

 同社の創業は、1988年。レコード輸入卸業として出発しました。洋楽のダンスミュージックを日本に紹介し、90年代のディスコブームに乗って業績を伸ばしていきました。

 転機となったのがtrf(現TRF)のデビューでした。音楽を輸入販売するというレコード会社の立ち位置から、エイベックスらしさを体現する日本人アーティストを自ら売りだす領域へと踏み出していったのです。