研究・開発では、新しい薬剤を世の中に出すまでに10年以上の時間がかかるのは当たり前です。しかも、その体制を維持するためには、莫大な投資が必要になる。さらに、経済のグローバリゼーションが加速する中では、研究・開発などの投資でも地球規模のスケール・メリットを考えなくてはならない。そうしなければ、「世界の農業が抱える課題を解決する」という、私たちのそもそもの事業目的を継続することができなくなってしまう。だからこそ、自らの手で事業形態を変えていく選択をしました。

 現在、世界の90以上の国・地域で農業ビジネスを展開するシンジェンタは、2万8000人以上の従業員がいます。農薬で世界1位、種子では世界3位の専門メーカーになりました。世界全体の売上高は、16年の数字で約1兆4000億円です。

――シンジェンタは、15年にモンサントからの買収提案を断りました。その後、16年には、中国の国営化学会社である中国化工集団(ケムチャイナ)の買収提案を受け入れています。約5兆3000億円という買収金額は、中国企業として過去最大の規模だったことから話題になりましたが、今後は何が変わるのですか。

 結論から言うと、全ての株式の所有権がケムチャイナに移動することで、それまで米国とスイスで株式上場していたシンジェンタは、非上場企業に変わります。

 しかし、スイス本社の経営陣のメンバー構成が入れ替わっても、その下のマネジメント体制は変わらない。これまで同様にスイスに本社を置き、シンジェンタとしての独立した経営が維持されます。この6月26日に、新経営陣のメンバーが発表されたばかりです。ケムチャイナの傘下に入っても、シンジェンタの社名は変わりません。

 私は、シンジェンタが買収提案を受け入れた経営判断には関与していないのですが、経営トップからの説明の内容を要約すると、以下のようになります。

 ケムチャイナは、(1)シンジェンタの長期的な事業戦略を尊重し、かつ戦略の継続性を認めてくれており、(2)私たちの技術を高く評価し、雇用を保障してくれている。さらに、(3)外資系企業の導入が進まなかった中国ではシンジェンタのシェアが5%に満たない点、(4)世界3位の農薬市場にシンジェンタの技術的なイノベーションを導入することで近代化が進められる点、(5)知的所有権などの問題が未整備のままである中国市場において世界ルールに則ったビジネスを定着させられる点などに期待しています。