歴史は繰り返すか

 8月6日にS&Pが米国債を格下げした。史上初めて最上位AAAの喪失である。株式市場では、格下げに驚き、大暴落が起こった。米政府は、格下げの扱いに強く反発し、その正当性を疑う声がある。

 筆者の脳裏に浮かぶのは、1998年11月に日本が初めてAAAを失ったときのことだ。格下げしたのはS&Pではなくムーディーズ。経常黒字国の日本では、国内貯蓄によって国債消化ができる。

 デフォルト・リスクはないので、格下げの評価は正しくないという反論が多かった。
批判の矛先は、デフォルトの有無に集中し、政府の財政運営の反省には至らなかった。

 それから十数年が経過して、日本のソブリン格付けは一時の改善はあったものの、下がり続けている。いや、政治サイドが財政規律を重視する考えに舵を切らないと、まだ引き下げられる可能性がある。

 米国でも、1998年の日本がそうだったように、現時点では「これは不当だ」「今回は特殊だ」と言っていても、数年の時を経て、長期化する財政問題の「あれは終わりの始まり」だったということになりかねない。

 米国の債務問題は、債務上限を巡る一過性のドタバタ劇ではなく、これから米国が低成長の中で苦しみ続ける構造問題になっていくという見方だ。

米国の格下げ懸念はドル安要因

 米国債の格下げの危うさは、世界のマネーフローを狂わせる流れをつくりかねないことだ。米国債の約半分は、海外が保有する。2000年代に入って、グローバル・インバランスの拡大とともに、新興国は巨大な外貨準備を蓄えた。

 その運用資産の少なからぬ部分が米国債になっている。ドルは基軸通貨国の通貨なので、デフォルトは起こり得ないにしても、新興国はドル安による減価リスクを心配するだろう。

 減価リスクは、米国の貿易決済をドルで行なっているうちは感じなくても、対ユーロ・対円で取り引きするときは外貨準備の購買力低下を実感する。だから、外貨準備をドル以外に分散させる流れは強まるであろう。

 ガイトナー米財務長官が、8月9日に電話会合で中国の王岐山副首相と金融市場の安定化について話し合ったことは、中国が米国債の最大の保有者であることに配慮したものだ。