考えさせられた場所

 実は、『マネジメント[エッセンシャル版]』ミリオン突破、担当書籍の企画通過に加え、今週はもうひとつ大きな衝撃があった。個人的な話で恐縮だが、それはTENGA展への参加である。

 『もしドラ』編集担当K藤に「すごく面白いから行ってきなよ。向かいのビルでやってるから。ムラタ以上に似合う人がいないイベントだよ」と薦められたので、ちょっと下世話な好奇心とともに足を運んできた。結論から言うと、驚きの一言。勉強になることがあまりに多すぎた。

 そもそも「TENGAとは何だ」いう方もたくさんいると思うので、簡単に説明すると、TENGAは男性用のアダルト商品である。僕自身、書きながらこれ以上どう説明すればよいのは分からなくなってしまうように、従来であればアンダーグラウンドだと認識されるジャンルの商品だ。

アイデアの芽。飽和した市場でできること。

 TENGA展に足を運んでみると、驚いたのはその内装。美術館にいるような気分にさせられるくらい、アートな雰囲気が漂っている。写真家の荒木経惟氏やフラワーデザイナー角浩之氏の作品などが飾られ、一見すると何をPRするための展示会なのかを忘れてしまうほどで、まさに主催者側の狙いに見事はまってしまった。

 男性用アダルト商品の市場、そのターゲットは非常に明確である。そのため、宣伝方法や媒体は限定的なものになって然るべきだと思う。まして、今回の展示会のように、純粋なイメージ広告を行う必要など、本来はない。

 しかし、TENGAの場合は、商品や宣伝を消費者のイメージに合わせるのではなく、消費者のイメージそのものを変えることで市場を開拓してしまうという戦略だと言える。遊び半分で行った場所ではあったが、今週最も考えさせられた時間かもしれない。

「商品や宣伝を消費者のイメージに合わせるのではなく、消費者のイメージそのものを変えることで市場を開拓する」。この戦略は業種を問わず活用できるものだと思う。特に成熟した、または飽和した市場において有効な手段になる。

 立ち返って、自分が身を置く出版界ではどうだろうか。読者の持つ「書籍」のイメージを変えることで新たなニーズを掘り起こせないだろうか。単に「読む」以上の機能を付加した電子書籍もそのひとつだろう。ただ、読者が確固たるイメージを持った「紙の書籍」の形態はそのままで、まったく新しい価値観を提案する、そんなことも可能なのではないだろうか。僕がこれから立案する企画に活かせる、大きな気づきがあった気がした。

 たとえば、ビジネス書なのに、ストーリー仕立てで、若者(高校生ならなお良し)が主人公で、読後には感動まで……。売れる、これは。