今も空港で社員に混じって働く
エアアジアの創業者

エアアジア創業者が今も空港で現場スタッフとともに働く理由社員のミスコン応募を支援したり、飛行機事故を起こした際には、遺族の家を自ら一軒一軒訪問するなど、フェルナンデス氏のマネジメント姿勢は独特。これは「他者との間に壁をつくらない」という信念に基づいたものだ Photo:Reuters/AFLO

 ASEANはいま、高い経済成長率を見込まれており、投資、起業熱が高まっている。当然マレーシアもその中に含まれる。先日、クアラルンプールにて、インド系起業家のフォーラムに参加する機会があり、参加してきた。

 そこでは、500人ほどの参加者を相手に、元世界銀行のファイナンシャルチーフマネージャーや、シンガポールのシンクタンク社長、すでにASEANで成功したインド系起業家、インド・パンジャーブ州の財務相など、そうそうたる面子が議論を行った。特にインドに縁深いわけではない筆者にとってでさえ、どれも非常に興味深いものだった。

 その中でも、とりわけ聴衆の注目を集めたのが、特別ゲストとして招待されたエアアジアグループCEOのトニー・フェルナンデス氏だった。

 マレーシア人にとっての彼は、アメリカ人にとってのスティーブ・ジョブズと同じだ。ワーナーミュージックのマネージングディレクターだった彼は、1100万ドルもの負債を抱えて経営破綻状態だったエアアジアを20セント(1リンギット)で買収し、その後格安航空会社(LCC)の代名詞にまで育て上げた起業家であり、ビジネス界のヒーローだ。

 イングランドのサッカーチーム、クイーンズ・パーク・レンジャーズFCのオーナーでもあり、2014年に手放すまでは、F1チームのオーナーでもあった。10年に同じくF1チームを所有していた、英国ヴァージンアトランティック航空オーナーのリチャード・ブランソンと、チーム成績の優劣について賭けをして、負けたブランソンが、エアアジアのCAユニフォーム姿で、接客サービスを行ったのも話題になった。

 上記のエピソードが示す通り、気さくでユーモアのある人柄も人気の要因である。このフォーラムでも、会場は笑いに包まれていた。

 彼は、「従業員は家族のようなものだと考えている」と語った。ビルのてっぺんにある自分のオフィスにいるのは好きではなく、いつも空港のオフィスで、他の従業員に交じって仕事を手伝っているそうだ。

「そうして、そこから従業員が何を望んでいるか、どんな働き方がいいかを、常に考えている。そしてそのことは確実にビジネスとしても価値があることだ」と彼は言っていた。