しかし、絶対音感は決定的に重要な音楽スキルではない。むしろミュージシャンが絶対音感を持っていると(柔軟性を失い)不便な場合もある。必要なことは音程の違いが分かることだ。今、「Happy Birthday to You」を私が歌うとすれば、どのキーからも始めることができる。繰り返しになるが、始めるキーは何でもいい。ピアノのキーボードにないキーでもいい。

 また、余談になるが、もし人里離れた農家で育ったとして、その家に調律されていないピアノがあったとすると、そこで覚えた絶対音は、他の世界の絶対音とは異なるものになる。言い換えれば、モーツァルトの絶対音は彼の時代のもので、彼が育った場所のものだったのだ。

――大人になってからプロ級の演奏家になることは可能か。

 こう答えよう。いかなる分野でもプロになるには1万時間の訓練が必要だ。7歳のときに始めると18歳のときまでには1万時間を訓練に費やすことができるが、35歳で始めると、1万時間の訓練を受けていたら70歳になってしまう。もちろん、もっと集中的に訓練を受ければ話は別だろうが、子どもがいたり、仕事があったりすれば、それはたやすいことではないだろう。

 ただ、30歳から始めて、毎日2時間真剣に練習すれば、45歳くらいまでにコンサートクラスの演奏家になれる可能性はある。むろん、世界のトップ20人に入ることができるという話をしているわけではない。自分の町でモーツァルトのピアノ協奏曲を、入場料を払う聴衆の前で弾くピアニスト程度にはなれるかもしれないということだ。それでも凄いことだが。