アラブ 2017年7月20日

教えて! 尚子先生
カタール断交にはどのような意味があるのですか?【中東・イスラム初級講座・第42回】

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7月20日公開分を一部修正して、再公開しました(2017年7月21日)。

突然発表された、サウジ・アラビア、UAE(アラブ首長国連邦)、バハレーン、エジプトの4カ国による「カタール断交」。私たちにはその区別すら難しい中東の湾岸諸国間で、いったい何が起きているのでしょうか。日本では珍しい女性の中東研究家として活躍する岩永尚子先生がわかりやすく説明します。

 先月(6月5日)、サウジ・アラビア(以下、「サウジ」と省略)、UAE(アラブ首長国連邦)、バハレーン、エジプトの4カ国が、カタールとの断交を発表しました。国家間の関係が悪化した場合は、通常なら「大使召還」→「断交」という順を経ます。ですが、今回の断交は、大使召還を飛ばした異例の状態で、外交関係はもちろんのこと、貿易や渡航も不可、飛行機の往来すらダメという厳しいものでした。

 ラマダン中であったにもかかわらず、カタールでは断交のために日用品や食料品が不足するのではないかと心配した人々がスーパーマーケットに殺到していました。レジには買いだめの長蛇の列ができており、こうした状況が日本でも報道されていました。今のところ、断交による値上げには、カタール政府が補助金を出すなどして対応しているようです。

 カタールといわれて、思いつくことがありますか? サッカーファンなら、「ドーハの悲劇」といえば、「あぁ、ドーハはカタールだったな」と思いだされる方も多いでしょう。また、2022年のワールドカップもドーハでの開催(中東での初開催)が決定しています。

 それ以外では、カタールといわれても、何も思いつかないという人が圧倒的多数でしょう。ですが、実はカタールのものだと知らないだけ、というモノもあります。たとえば、アル・ジャジーラです。

 アル・ジャジーラはカタールの衛星放送で、アメリカの同時多発テロの際に、オサマ・ビン・ラーディンの声明を独占放送したことで一躍有名になりました。報道内容がテロリスト支援につながるとアメリカが批判したために、物議を醸したことも記憶に新しいかもしれません。アル・ジャジーラは知っていても、この放送局がカタールの放送局であることを知っているのは、おそらくアラブにかなり興味のある人だけでしょう。

カタール断交は、日本にどのような影響があるのか

 カタールは人口224万人、面積は秋田県ぐらいの小さな国です。224万の人口のうち、約1割だけが自国民で、残りのすべてが出稼ぎの外国人であるといわれています。場所としては、アラビア半島の東の突き出した部分に位置しています。地図を見ると明らかなのですが、サウジ、UAE、バハレーンに囲まれているため、陸路も空路も封鎖されている今回の断交が、いかに厳しい措置であるかがわかると思います。

 カタールの主要な産業は石油と天然ガスです。石油よりも近年は天然ガスが注目されており、日本の液化天然ガス輸入の約15%がカタールからの輸入となっているほどです。豊かな資源に支えられて、1人あたりの国内総生産(GDP)は6万9000ドルと高く、日本の約2倍です(人口およびGDPはいずれも2015年)。さらに、電気、水道などの光熱費、医療費、大学までの学費も無料です。

 このような産業構造などを見る限り、中東のことをよく知らない私たちにとって、サウジやUAEなどの他の湾岸諸国に比べて、カタールにはとりたてて変わったことがないようにみえてしまいます。むしろ、区別がつかないくらいです。ですから、今回のカタールへの断交は、「何が違うのかよくわからない国同士が何かやっている」程度の認識に留まってしまいがちです。

 ですが、この対立は日本とは無関係というわけではありません。なぜなら、まず、日本の原油輸入はサウジとUAEの2国だけで6割に達している一方で、液化天然ガスはもう一方のカタールに大きく依存しているためです。ちなみに、日本の液化天然ガスの輸入量は世界最大だといわれています。

 また、カタールはヘリウムガスも日本に供給しており、今回の断交によって輸入が停止しているため、ヘリウム不足もすでに懸念されています。なお、ヘリウムガスを輸出している国は世界中でカタールを含め6カ国のみにもかかわらず、ヘリウムガスは半導体の生産には不可欠だそうです。

カタールのドーハにあるハマド国際空港。空港中央には大きなクマがあり、撮影スポットに (Photo:©Alt Invest Com)

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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