認知症の「根本治療薬」開発は2025年までに実現なるか?

いまや世界的な問題である認知症。国際アルツハイマー病協会(ADI)によると、世界で認知症の人は2015年に4680万人、50年には1億3150万人に増加すると予測されており、認知症の治療や介護にかかるコストは、15年の8180億ドル(約91兆円)から18年には1兆ドル(約111兆円)になると推計されています。現在、100を超えるアルツハイマー病の治療候補薬が治験中で、昨年は、米・イーライリリー社が最終ステージであるフェーズ3の治験薬開発中止を発表した翌日、同社の株価が10%下落して話題になりました。世界が期待を寄せる認知症の根本治療薬開発の現在について、前回の『アルツハイマー病は発症の25年前から静かに進行する』に続き、森啓先生に伺いました。

アリセプトがもたらした大きな社会変化

 13年にロンドンで行われたG8認知症サミットでは、「各国の協力により、2025年までに認知症の治療法もしくは緩和療法の確立を目指す」との共同宣言がありました。この目標に向かい、急ピッチで治療薬の開発が進められています。

 認知症の原因疾患の中で最も新薬の臨床研究が進んでいるのはアルツハイマー病です。日本では現在、4種の抗認知症薬が認可されています。そのトップバッターとして登場したのが、アルツハイマー病とレビー小体型認知症の治療薬として使われているエーザイの「アリセプト」(化学物質名:ドネペジル塩酸塩)です。

 脳内で減少している認知機能に関わる神経伝達物質「アセチルコリン」を補うアリセプトは、1997年(日本では1999年)に世界初のアルツハイマー病治療薬として発売されました。「この病気が治るのならば」と、それまで座敷牢のごとく家に閉じ込められていた多くの認知症の人たちが家族と共に病院に足を運んだという点で、アリセプトは社会を変えるきっかけとなる画期的な薬だったと思います。アルツハイマー病が薬で治せる「病気」であるとの理解と認識が広まったという意味でも大きな貢献をしました。

 レミニールとイクセロン・リバスパッチも同じくアセチルコリンを補うための薬です。2002年(日本では11年)に発売されたアルツハイマー病の治療薬「メマリー」(同:メマンチン)は、記憶や学習に関わるたんぱく質「NMDA受容体」の働きを改善して神経細胞を守る役割があります。しかし、これらはあくまで進行を遅延するにとどまり、現在に至るまでアルツハイマー病の根治薬は見つかっていません。