ハーバードの教授が日本に願う「世界の良心であり続けてほしい」

第二次世界大戦中に日本軍に撃墜された経験を持ちながらも、「私はドイツに対しても日本に対しても何の恨みも持っていません」と言い切ったジョージ・H・W・ブッシュ元大統領。国内の反対意見を押し切ってまで、広島を訪問したオバマ前大統領。世界の超大国アメリカの大統領はどのようなモラルリーダーシップを示すべきなのだろうか。そして唯一の被爆国日本の役割とは。ハーバードビジネススクールで「トルーマンと原爆」について教えるサンドラ・サッチャー教授に聞く全3回の最終回。(2017年4月21日、ハーバードビジネススクールにてインタビュー)

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アメリカ大統領のモラルリーダーシップ

佐藤 日米関係の発展のためにモラルリーダーシップ(人道的なリーダーシップ)を発揮したアメリカ大統領といえば、ジョージ・H・W・ブッシュ元大統領が真っ先に思い浮かびます。1991年12月、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領(当時)が真珠湾攻撃50周年式典で行った演説は、「融和演説」とも言われ、戦後の日米関係史の分水嶺になったと高く評価されています。特にこの部分が有名です。

「私はドイツに対しても日本に対しても何の恨みも持っていません。憎悪の気持ちなど全くありません。真珠湾攻撃により多くの人々が犠牲になりましたが、このようなことが二度とおこらないことを心から願っています。報復を考えるのはもうやめにしましょう。第二次世界大戦は終わったのです。戦争は過去のことなのです」(*1)

 第二次世界大戦中、日本軍に自らが搭乗する飛行機を撃墜された経験を持つブッシュ大統領の言葉はとても重いと感じています。サッチャー教授はこの演説をどのように評価しますか。

サッチャー これはまさにモラルリーダーシップの模範例です。ジョージ・H・W・ブッシュ大統領は、ドイツと日本に対して何の恨みも持っていません、とはっきりと伝えています。もうお互いを非難しあう時代ではないと。ブッシュ大統領は、アメリカと同じようにドイツと日本もまた戦争の被害を被った犠牲者である、と認めています。そして「戦地で戦った私がこのつらさを乗り越えられたのだから皆さんもできるはず。だから、私に続いてください」と呼びかけたのです。