廣畑 明け方5時に浮かんだイメージは、島井宗室が夜に一人で断崖絶壁に立ち、暗い海の向こうにある朝鮮半島の方を見やりながら、思案の末に決意する、というシーンでした。そのことをお話ししたら、松さんがそれはすごくいいかもしれない、と言いながらその場でラフを描いてくれました。そのラフは、いまの装丁とほぼ一緒なんです。僕の頭の中では夜なので海も空も真っ暗でしたが、空は白で表現しようというご提案もいただきました。その白い空に、墨染の僧衣を着た宗室が崖の上に立っていて、眼下には暗い海が広がる、と。

 このイメージのやり取りをしているあいだ、ずっと鳥肌が立っていました。タイトルと装丁がぴったりとハマる、そんな予感に自分で興奮していたんです(笑)。松さんとの打ち合わせでは、そこまで一気に決まりました。

作品の「顔」となる装画、その舞台裏は?
作者の思いを「形」にしてくださったデザインとイラストに感謝。

――その後にイラストレーターの選定をしたの?

廣畑 はい。松さんが候補の人を何人も選んでくださったのですが、松さんも僕も同じ人を選びました。その方が、今回引き受けてくださった村田涼平さんでした。

――それはとても幸運だったね。

廣畑 そう思います。しかも僕は編集者として、装画を発注するのが初めてだったんです。だから、経験の豊富な同僚の編集者にアドバイスをもらって、依頼から発注までの「作法」を教わってから依頼しました。納期まで半月くらいしかなかったにもかかわらず、村田さんは快く受けてくださいました。村田さんは、これまでに一度、松さんと一緒にお仕事をしたことがあったそうで、それもうまくいった要因だと思います。細かい構図の指示などは、松さんがきめ細やかにやってくださいました。

 ラフはほとんどイメージどおりでした。見た瞬間、「村田さんにお願いしてよかった」、と思いました。さらに実際に完成して送っていただいた原画を松さんの事務所で開いた瞬間は興奮しました。本当に、イメージしたとおりで、いやそれを上回る出来でした。

 松さんも村田さんも、お忙しいなか原稿を読んで作品に取り組んでくださったのも、とても嬉しかったです。

『銭の弾もて秀吉を撃て』(後編)<br />作者と社内外のプロフェッショナルに支えられた<br />初めての「歴史小説」編集ストーリー作者である指方さんにもお見せした原画データ。村田さんはなんと2枚描いてくれたそうだ。なお、実際の装丁には画面左側のものを使用した。

――作者には原画をお見せした?

廣畑 最終打ち合わせで小倉に伺った際、このイラストをスキャンしたものをお見せしたところ、涙ぐんでおられるようでした。おそらく、自分の作品が「本」になるという実感をもたれたんだと思います。

――作者の「この作品を世に出したい」という思いが伝わってくる話。

廣畑 はい、それはずっと感じていました。同時に僕にとっても同じ思いでした。指方さんは、いろんなことを僕に任せてくださいました。だからこそ、逆にこちらもいいものにしようと思っていたので、その瞬間は僕にとってもとても嬉しいものでした。