旧大蔵省で「10年に1人の大物次官」と呼ばれた斎藤次郎東京金融取引所社長を日本郵政社長に充てる人事に対し、批判の大合唱が起きている。

 大手の新聞各紙がそろって、「元官僚の登用は脱官僚依存という鳩山由紀夫政権の基本方針に反するはずだ」と社説で歯切れのよい批判を展開しているほか、竹中平蔵元総務大臣らもテレビの討論番組などで新政権の一連の郵政民営化改革が国有化を目指すものだと糾弾しているのだ。

 しかし筆者には、これらの批判が、問題の本質、つまり、この人事を断行した亀井静香郵政・金融担当大臣の意図を、理解していないのではないかと思えてならない。

 そして、この亀井氏の意図には、日本郵政だけでなく、政治全体を断ち難い怨嗟の連鎖に陥れる危うさがあるのではないだろうか。

西川氏辞任要求への
改革派の批判は的外れ

 政府・日本郵政は10月28日、同社の取締役と臨時株主総会を開催して、経営陣の一新を決めた。

 賛否が分かれている第一のポイントは、鳩山由紀夫内閣が西川善文氏に日本郵政社長を辞任するように迫った点である。竹中平蔵氏は10月25日に民放の討論番組に出て、「異常なことが重なっている」などと批判した。小泉郵政改革を推進した人たちの間では、こうした論調が目立っている。

 しかし、この種の批判は的外れとしか言いようがない。というのは、西川氏は「かんぽの宿」のオリックスへの叩き売り疑惑で、野党時代の民主、社民、国民新の3党から特別背任容疑で刑事告発を受けていたからだ。加えて、西川体制はこの問題以外にも、三井住友カード、博報堂、日本通運などとの業務提携でも「出来レース」疑惑の指摘を受けている。社会的な批判の声も強かった。

 そうした中で、西川氏は“お仲間”で固めた取締役陣の支援を取り付けて居座ろうとしたことも記憶に新しい。9月の総選挙で政権交代が確実になって、鳩山首相が自ら辞任を促しても、なお、居座り続けたのだった。こう考えれば、西川氏の辞任自体は、「遅過ぎたけじめ」と言わざるを得まい。さらに言えば、今後、鳩山内閣には、これらの数々の疑惑の解明という使命も残されている。

 その一方で、竹中氏ら小泉郵政民営化の推進派だけでなく、新聞各紙もこぞって鳩山内閣を批判したのが、西川氏の後継人事の問題だ。大蔵事務次官経験者の斎藤氏が登用されたことに対して、各紙は社説で、「民から官へ、逆流ですか」(朝日新聞)、「『官僚丸投げの政治から、政権党が責任を持つ政治家主導の政治へ』とした鳩山政権の政権公約の理念に背くのではないか」(同)、「元次官に郵政託す『脱官僚』」(日本経済新聞)、「政権の意に沿わない民間出身の西川氏を任期途中で追い出し、大蔵次官経験者を三顧の礼で迎え入れる。そんな組織が民間会社なのか。郵政民営化を撤回し、官業に戻すなら、そうはっきり説明するべきだ」(同)といった具合である。