橘玲の世界投資見聞録 2017年7月28日

道に牛が歩いているかと思うと「近未来」が現れるインドの衝撃
[橘玲の世界投資見聞録]

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 イギリスのジャーナリスト、エドワード・ルースは現在のインドを「グローバル化と中世の生活」と述べた。これまで何回かにわたってインドの中世的(前近代的)な側面に焦点を当ててきたが、今回は「グローバル化」の体験を書いてみたい。

[参考記事]
●インド・アーグラのカフェで知った極度に閉鎖的な共同体が生み出したあまりにも残酷な慣習
●インドの保守政権を牛耳るヒンドゥー至上主義者たちのねじれた民族主義
●映画『ボンベイ』が描いた、インド「コミュナリズム」のあまりに深刻な現実

 

 旅行者にとってのインドの衝撃は、道の真ん中を牛が歩いているかと思えば、一転して日本よりずっと進んだ「近未来」に出会うことだ。

ニューデリーのハイテク都市グルグラム        (Photo:©Alt Invest Com) 


 

メーターのないインドの近未来メーター制タクシー

 ニューデリーのインディラ・ガンディー国際空港からハイテク都市として知られるグルグラム(旧名グルガーオン)に向かうタクシーは、メーター制だと聞いていたのに、車内にメーターらしきものはなかった。

 30代くらいの男性ドライバーに「メーターはどこ?」と訊くと、「これだよ」といってポケットからスマートフォンを取り出す。

 「そんなメーター、あるわけないでしょ」とうんざりしながら、料金交渉することにした。それまでの(北)インド旅行で、さまざまな手口でぼったくられてきたからだ。「それで、いくら払えばいいの?」

 するとドライバーは、真剣な表情で「これは会社から支給された端末で、距離を感知して金額を自動計算するようになっているんだ。ぼくはいっさい触れないんだよ」という。

“ぜんぜん信じられない”と思いながらも、こんなことで言い争っていてもしかないので、「とにかくホテルに行ってよ」と伝えた。

 グルガオンは国際空港からハイウエイ48号線を南西に15キロほど下ったところにあり、スマートフォンで請求された料金は600ルピー(約1000円)だった。それよりすこし近いニューデリーのダウンタウンまで500ルピーだったから、驚いたことにぼったくりではなかったのだ。

 お金を渡すと、「領収書はいるの?」とドライバーに訊かれた。

 不思議に思って「プリンターがないよ」と訊き返すと、「携帯の番号を教えてくれたら、そこに領収書をメールするようになってるんだ」という。そしてちゃんと、明朗会計の領収書が送られてきた。

グルグラムの象徴、サイバーシティ                    (Photo:©Alt Invest Com) 

 

 グルグラムGurugramは「グル=導師の村」の意味で、2016年9月に旧名のグルガーオンGurgaonから改名されたばかりだ。これはインド全土に広がる「歴史の見直し」の一環で、グルガオンの名はインドの叙事詩『マハーバーラタ』の登場人物でグル(武芸師範)のドローナにつながるのだという。

 グルグラムの面積は738.8平方キロで東京都区部(619平方キロ)とほぼ同じだが、人口は100万人に満たない。1970年にスズキ自動車の子会社マルチ・スズキが工場を建てたときは辺鄙な農村だったが、その後、国際空港とのあいだにハイウエイができると急速に発展し、いまではインドにおける金融業やIT産業の有数の拠点となっている。開発したのはインド最大の不動産ディベロッパーDLFで、主要な地区をメトロ(高架鉄道)で結び、郊外に急ピッチで高層コンドミニアムが建てられている。

 グルグラムの象徴がDLFサイバーシティのビル群で、グーグル、オラクル、ヤフー、リンクトインなどインドに進出する多くのIT企業がここにオフィスを構えている。日本と異なり、セキュリティのためビルのなかにレストランなどは併設されておらず、そのかわり「サイバーハブCyber Hub」という巨大なレストラン街がある。インド料理だけでなく、フレンチ、イタリアン、中華など世界各国のレストランが並び、パブやバーもあって、ここで働く日本人のあいだでは「インドの六本木」と呼ばれている。

「インドの六本木」サイバーハブ             (Photo:©Alt Invest Com) 

 

 サイバーハブのお洒落なインディアンレストランでワインを飲みながら食事をしたあと、タクシーでホテルに戻ろうと思った。地上に降りるとタクシーはたくさんいるが、乗り場らしきものは見つからない。

 近くのタクシー運転手に「ホテルまで行ける?」と訊くと、英語が話せないらしく、たまたま通りかかった若いビジネスマンを呼び止めた。タクシー運転手から事情を聞いた彼は、わずかにインド訛りがある早口の英語でまくしたてた。

 「ここのタクシーはみんな予約されてるんだよ」ピンストライプの高級そうなシャツを着た彼はいった。「フリーのタクシーはいないから、アプリで予約しなきゃいけない。やってあげてもいいけど、君のホテルならメトロを使った方が早くて安上がりだよ」

 彼の説明によると、ここに集まっているのはすべてウーバーによって呼ばれた車だという。驚いたことに、“近未来都市”グルガオンでは客待ちのタクシーはなくなってしまったようなのだ(その後彼は、きわめて理路整然とホテルまでの行き方を教えてくれた)。

 ちなみに、インドではニューデリーにかぎらず大都市ではウーバーが広く普及していて、アプリをインストールすればかんたんに車を手配できる。ただしサイバーシティで客待ちしているのは、すべて正規のタクシーだった。

サイバーハブのお洒落なレストラン           (Photo:©Alt Invest Com) 

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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