充電池の大本命「リチウム硫黄電池」を生んだ東電マンの苦節25年道畑日出夫・東京電力ホールディングス経営技術戦略研究所技術開発部需要家エリアスペシャリスト(電解質材料技術)工学博士 Photo by Yasuo Katatae

 2016年6月、二次電池の研究に関わる事業者や研究者なら誰もが驚く新型二次電池「リチウム硫黄電池」が、東京電力ホールディングス経営技術戦略研究所の地下にある小さな研究室で生まれた。生みの親は道畑日出夫。新卒で電力会社に入社したものの、一貫して電池の研究を続けてきた、“電力マン”ならぬ“電池マン”である。

 リチウム硫黄電池は、電解質にセラミックス系固体電解質、正極に硫黄、負極にリチウムを採用。広く普及しているリチウムイオン電池と比較して、製造コストと安全性、性能のどれにおいても勝っている次世代電池である。

 製造コストはリチウムイオン電池が1キロワット時当たり1万8000円程度であるのに比べて、リチウム硫黄電池は5000~1万円程度と安い。また、リチウム硫黄電池は電解質が固体で不燃性のため、液漏れ、発火といったリチウムイオン電池特有のリスクもない。その上、充放電による反応生成物が発生しにくいため劣化がほとんどなく、蓄電容量はリチウムイオン電池の約3.3倍だ。

 そのため、現段階ではリチウム硫黄電池が、二次電池の“本命”として有望視されている。

 開発に成功した当時は直径が1円玉程度だったが、今では直径5センチメートル程度の大きさまで拡大することに成功。量産へ向けて、メーカーと具体的な協議・検討に入った。

 そもそも、なぜ東電が電池の開発に取り組んでいるのだろうか。電気自動車やスマートシティーなど高性能な二次電池市場の急拡大は確実ではあるが、東電の本業は発電して家庭などの利用者に電気を届けることのはずだ。