[東京 28日 ロイター] - 外為市場では、一部投資家による通貨オプション戦略上の「誤算」が、ユーロの一段高を支援したと指摘されている。欧州中央銀行(ECB)による「出口」戦略への思惑台頭で予想レンジが突破され、売り持ちオプションを大量に抱えた一部の参加者が、ヘッジの必要からユーロ買いを強めたとみられる。

ただ、ファンダメンタルズに基づかない買いも紛れ込んでいることから、目先のユーロ上昇の持続力に慎重な見方も出ている。

<ネガティブガンマの読みに狂い>

「ユーロがこれほど短期間で上昇するとの見方は、年初にはほとんどなかった。投資戦略に狂いが生じた投資家も少なからずいる」と、国内金融機関のディーラーは指摘する。

ユーロ/ドル<EUR=EBS>は2015年以降、1.05─1.15ドルをコアレンジとして推移。今年もフランス大統領選などユーロ売り要因になりやすい政治イベントがあり、2年半にわたるこのレンジを上方向に突破するのは難しいとの見方が多かった。

短期筋だけでなく、ファンドなど中長期の投資家の中にも、レンジの上限でもあった心理的節目1.1500ドルや、2016年5月高値1.1616ドル、2015年8月高値1.1715ドルを「安全圏」と見込んで、通貨オプションの「ネガティブガンマ」となるストライクプライス(権利行使価格)を設定する動きが観測された。

ネガティブガンマは、オプションの売り持ちを指す。相場がストライクプライスを超えて上昇すれば、損失が膨らみ続けるおそれがあるが、そうでなければプレミアム分の高い収益が見込める。「満期までストライクプライスを超えなければ、うまみは大きい」(国内金融機関)とされる。

ところが、仏大統領選を無難に通過すると潮目が変わり、ユーロは上昇基調に転換。6月後半には、ドラギECB総裁のタカ派発言で緩和政策の出口への思惑が、米国ではロシアゲートへの警戒感が、それぞれ強まったことで、上昇ピッチが一段と加速。ネガティブガンマのストライクプライスを次々と突破しつつ、上昇を続けた。

<ヘッジ買いがユーロ高を加速>

コール(買う権利)を売るネガティブガンマの場合、ストライクプライスを超えて相場が上昇すれば、価格変動のリスクをヘッジするため、スポットでユーロを買いつけるのが一般的だ。

投機筋のユーロロングポジションは膨らんできており、「本来ならこの水準からは、ロングを膨らませにくい」(別の国内金融機関)という。ユーロがさらに一段高となれば、耐え切れずにネガティブガンマを手仕舞う向きが増えるとみられるが、ポジションを持つ以上、相場が上昇し続けるなら、価格変動に応じてさらにリスクをヘッジする必要が出てくる。

7月26日にかけて開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)の後、ユーロはドル安の裏側で上昇が加速。2015年8月高値1.1715ドルを上抜けた後、1.17ドル半ばへと上昇に弾みがついた。同水準にストライクプライスがあったネガティブガンマに伴うユーロ買いも、上昇を支援したと見られている。

<どちらに転んでも苦しいポジション>

ただ、逆にユーロが下落した場合にも、悩ましい問題が生じる。ストライクプライスを割り込んで相場が崩れるなら、ヘッジのために仕込んだユーロロングの含み損が膨らみ、今度は損切りの判断を迫られるためだ。

実際、ユーロは27日の市場で早くも下落に転じ、ストライクプライスがあったとみられる1.17ドルを割り込んで、翌日には1.16ドル半ばに押し戻された。背景には、こうしたオプションの動きもあったとみられている。

「ヘッジで仕込んだユーロロングの損切りが、相場の下落圧力になる可能性がある」と、あおぞら銀行・市場商品部部長、諸我晃氏は話す。

一方、ユーロロングを損切りした後、再びユーロが上昇に転じ、ストライクプライスを上回ってくるようなら、今度は、あらためてスポットでユーロのヘッジを手当てする必要が出てくる。

こうした苦しいサイクルから抜け出すには、オプションの満期を待たずに、オプションを買い戻す手もある。ただ「得られるプレミアム分の収益を上回るようなコストがかかるおそれがあり、その判断は容易に下せない」(同)という。

ユーロは中長期で上昇トレンドに入ったとの見方が多いが、1.15ドルを超えた目先の上昇に慎重な見方もあるのは、経済のファンダメンタルズをじっくり織り込むというより、ネガティブガンマに伴うユーロ買いなどの技術的側面があるためだ。

市場では「(目先のユーロ高は)砂上の楼閣かもしれない」(みずほ銀行・国際為替部参事役、加藤倫義氏)との声も出ている。

(平田紀之 編集:伊賀大記)