世界最大のPCメーカーであるHP(ヒューレット・パッカード)がそのPC事業を切り離し、さらにタブレットコンピュータやスマートフォンのハードウェア事業からも撤退する可能性を検討していると発表した。この突然のニュースは、ここ米国でも驚天動地のインパクトを持って伝えられている。

 HPといえば、シリコンバレーで最も歴史のある落ち着いた企業のひとつだ。よりおいしい機会を求めて企業を渡り歩く“ジョブホッピング”が盛んなこの地にありながら、HPの従業員は長年勤め上げることで知られていた。

 だが、実はそれも数年前までの話。最近のHPはトップが何度も入れ替わり、混乱の中で、レイオフも頻繁に行われ、とても落ち着いた企業とは言えなかった。それだけに、考えようによっては、今回の発表からは、大胆な選択と集中で、数年来の混乱に終止符を打とうという現経営陣の意気込みが伝わってくる。

 HPのPC事業は、2002年のコンパック買収によって、いったん持ち直した。コンパック買収は、当時のCEO、カーリー・フィオリーナの大仕事だったが、創業一族を含む反対派との確執を生み、長期間にわたってHPの企業イメージにダメージを与え続けた。だが、HPのシェア維持に貢献したのは確かで、同社はPC市場でデルやエイサーを押さえ込んで、米国および世界市場の双方でシェア1位の座を維持している。

 しかし、HPが2社統合の強みをさらに発揮しようとあくせくしているうちに、PCを取り囲む環境はすっかり変わってしまった。一般消費者の関心は、デスクトップよりラップトップへ、今さらにラップトップからタブレットやスマートフォンへと急速に移行している。そうしたなか、HPはアジア勢の格安PCに対抗する中で、PC事業のマージン低下に悩まされ続け、その一方で、タブレットの隆盛にも乗り遅れてしまった。同社は昨春、スマートフォン開発の元祖ともいうべきパームを買収し、評価の高かったそのモバイルOSであるウェブOSを手中にしたが、前述したように、ウェブOS端末事業を打ち切る方針を明らかにしている。