出版までに原稿のボリュームを減らす。
水滸伝のようなスケール感と読みやすさの両立。

――受賞から出版に向けて、もっとも苦労されたのは?

佐藤 スケールの大きな物語の構造を保ちながら、ボリュームを減らすことです。城山賞の応募規定では、原稿用紙(400字)800枚までとなっています。それは他の小説大賞と比較してもかなり文字数の制限のゆるい賞だと思います。ですが、深井さんは毎回、その字数の限度一杯書いてこられます。800枚では足りなくて、締切りまでに規定の枚数に減らすのに苦労するとおっしゃっていました。深井さんは恐らく水滸伝のような延々と物語が続くものをイメージして書かれているのかもれません。

 ただ、書き込みすぎて読者がストーリーについていきづらくなる部分もあったので、整理してボリュームを減らすことをお願いしました。小説としての色艶やスケール感を失わずに原稿を削るのは、相当大変だったと思います。

――これだけ大きな構造の物語を書かれるのも才能の一端ですね。あと、東日本大震災の話が入っているのに驚きました。

佐藤 これは本筋に影響することではないのですが、ゲラ校正の段階で深井さんが入れられました。深井さん周辺の銀行マンの間では「昨日の中国を語るな」という言い伝えがあるそうです。応募時は、2009年。書籍の発売時は、2011年。出版時点で過去の話ではなく、いまの話にしたいと深井さんは考え、震災後の日本を前提にした会話やエピソードが織り込まれました。

――応募作のタイトルは、「草魂の夜想曲」でしたが?

佐藤 作品に登場するショパンの「夜想曲」から発想されたタイトルですが、ちょっと分かり難いかもしれないと思いました。もっと中国をイメージする言葉がほしいし、作品のスケール感が出てほしいといろいろ考えました。

 たとえば、「赤い雪」という書名を考えましたが、女性的なイメージが強くなりすぎるのでやめました。他には「中国の富に群がるハイエナを撃て」という帯のコピーも書名案として出てきたものです。でも小説のタイトルとしては説明しすぎで長すぎます。

 最終的に決まったこのタイトル(黄土の疾風)は、「黄土」という言葉が中国をイメージしやすいのでは?と思い、これに決めました。

第三回城山三郎経済小説大賞受賞作<br />『黄土の疾風』(後編)<br />著者は「中国に一番詳しい銀行マン」です応募時の原稿と、最終選考用にゲラ組して作られた簡易製本。表紙に『草魂の夜想曲』とあるが、これは応募時のタイトル。最終選考の先生方には、簡易製本の状態でお渡しする。