サプライチェーンの改革というと、効率とコストばかりに焦点が当てられる。しかし、このような効率性ばかり追い求めていると、改善されるどころか、競争力を阻害してしまう。ではサプライチェーンに真に必要なものとは何か。筆者は3つのA、"agile" "adaptable" "aligned"を提唱する。つまり「俊敏性」「適応力」、そして「利害の一致」である。ルーセント、インテル、エリクソン、シスコなどの失敗をひも解きながら、サプライチェーンの再設計について説く。なお本稿は、2004年度のマッキンゼー賞の銀賞を受賞した。

サプライチェーンの3条件

 ここ15年間、私はサプライチェーンの構築や改革に力を注いできたトップ企業60余社について、その内部から研究してきた。

ハウ L.リー
Hau L. Lee
スタンフォード大学経営大学院のトーマ記念講座教授。オペレーション、ITマネジメントが専門。また、スタンフォード・グローバル・サプライチェーン・マネジメント・フォーラムの共同ディレクターを務める。共編著にThe Practice of Supply Chain Management: Where Theory and Ap-plication Converge, Kluwer Academic Publishers, 2003.がある。

 サプライチェーンとは、要するに製品やサービスを消費者にできる限り速く、安く届ける仕組みである。そのパフォーマンスを高めようと、ともかく最新技術に投資し、それでも不十分ならば、1流の人材を雇い入れてきた。

 また、業界内の各社が集まってプロセスの無駄を省き、技術標準を定め、共有インフラに投資するという例も少なくない。たとえば1990年代初め、アメリカのアパレル業界はQR(quick response)運動を始めた。欧米の食品業界にはECR(efficient consumer response)が、アメリカの外食産業にはEFR(efficient foodservice response)があった。いずれの活動も、スピードとコスト効率の向上が目的とされた。

 一般に、優れた効率性こそSCMの理想とされる。もちろん、目下の目標は、個々の企業の発展段階によって異なる。好況時であればスピードを最優先すべきであり、逆に成熟期には必死にコスト削減に努めなければならない。

 しかし、私は長年の研究のなかで、企業も研究者も見逃している根本的な問題の存在に気づいた。条件が同じであれば、ひたすらサプライチェーンの効率化に努める企業は、持続的な競争優位どころか、サプライチェーン全体のパフォーマンスを低下させる。