不況期には、コスト削減や売上げの拡大といった短期的な目標やGDP成長率、失業率といったマクロ指標に目が向きやすいが、これらをうのみにしていると、今後の変化を見誤る可能性が高い。筆者らは、過去40年分のデータ収集と調査により、25の評価基準からなる3種類の指標を開発した。現在起こっている大転換に向けて、これらの指標が新たな羅針盤となる。

高い生産性、低い利益率

ジョン・ヘーゲル3世
John Hage III
デロイトトウシュトーマツ傘下のアメリカ法人デロイトLLPの1部門であるデロイト・センター・フォー・エッジの共同会長。同センターは勃興するビジネスチャンスを探索・特定し、企業幹部の意思決定を助けることをミッションとしている。主要な著作にOut of the Box: Strategies for Achieving Profits Today and Growth Tomorrow through Web Services, Harvard Business School Press; 2002.(邦訳『今こそ見直したいIT戦略』ランダムハウス講談社、2004年)が、またマッキンゼー・アンド・カンパニー時代の共著にNet Worth: Shaping Markets When Customers Make the Rules, Harvard Business School Press, 1999.(邦訳『ネットの真価』東洋経済新報社、2001年)がある。

ジョン・シーリー・ブラウン
John Seely Brown
デロイト・センター・フォー・エッジの独立共同会長。主要な共著にThe Social Life of Information, Harvard Business School Press, 2000.(邦訳『なぜITは社会を変えないのか』日本経済新聞社、2002年)などがある。

ラング・デビソン
Lang Davison
デロイト・センター・フォー・エッジのエグゼクティブ・ディレクター。

 深刻な不況にあって、経営者たちは、コスト削減、売上げや市場シェアの拡大といった短期的な業績目標にやっきになる。その一方で、エコノミストたちは、事業環境全体の健全性を評価するために、GDP成長率、失業率、貿易収支といったデータを分析する。

 しかし、これら伝統的な評価基準ばかり見ていると、長期的な変化を見落してしまう。そこには、これまで経済価値の源泉として当然視されてきたものを陳腐化する力が秘められている(実のところ、すでに時代遅れになっているかもしれない)。おそらく景気が回復しても、企業利益は依然、低迷し続けるだろう。

 伝統的な評価基準だけでは、アメリカ企業とアメリカ経済が直面する課題やチャンスを把握できない。その理由として、とりわけ演算処理能力、帯域幅、記憶容量など、大半の産業を支えるデジタル・インフラが急ピッチで向上し続けていることが挙げられる。

 たとえば、1世代前のインフラによって、電話や内燃機関など基盤技術にイノベーションが次々に起こり、あっという間に定着した。しかし現在、新しいデジタル・インフラには、まだ定着の兆しは見えない。

 とはいえ、このことをひるがえすと、過去40年間で2倍以上になった競争集約度(競争の激しさ)が依然上昇し続けているだけでなく、デジタル・インフラがビジネス・イノベーションの可能性と必要性を高めていると考えられる。