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JBLヘッドフォンのエントリーラインを担う「Eシリーズ」を、世界的音楽プロデューサーのクインシー・ジョーンズがサウンドチューン

クインシー・ジョーンズのヘッドフォンが再び!

 「クインシー・ジョーンズ」という名前にどんな印象を持つだろうか?

 洋楽好きならば真っ先に思いつくのは「マイケル・ジャクソンのプロデューサー」という人が多いのではないだろうか。あるいはスーパースターが結集した奇跡の一曲「We are the World」の仕掛け人が思い浮かぶかもしれない。しかしオーディオ好き、それもヘッドフォン好きならば「AKG K701のカスタムモデル」の方がより印象深いのではないだろうか。

 そのクインシー・ジョーンズによるヘッドフォンのスペシャルモデル「E55BT クインシーエディション」が発売された。しかし今回はオーストリアのAKGではなく、同じハーマングループのアメリカを代表するオーディオブランド「JBL」から。ベースモデルは公式ストアの価格が1万7000円台というBluetoothヘッドフォン「E55BT」だが、世界で愛されるJBLを大御所プロデューサーはどのように料理するのだろう。とても気になったのでベースモデルと一緒に試してみた。

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マット調主体の落ち着いたデザインが特徴的な「E55BT クインシーエディション」。カラーはピンクとブラックの2色

 まずは両モデルを軽くおさらい。ハーマンがこの春に日本市場へ導入したばかりの「Eシリーズ」は、JBLヘッドフォンの普及価格帯を担うライン。コストを抑えつつも、音とデザインと使い勝手を高い次元で両立することを目標に設計されている。

 E55BTはその最上位機種で、ホワイト/ブラック/ブルー/レッドという押しの強いカラーや、ファブリック素材のヘッドバンドなど、若いユーザーを想定したデザインが見られる。実物を見ると、ヘッドバンドのファブリックはジャージのような素材感で、イヤーカップは細かな網目模様をあしらったプラスチック。全体としてかなり若々しい印象を受けた。

 また、2時間の充電で20時間の再生が可能なロングバッテリーライフや、コンパクトに折りたためる機構など、手軽に持ち出すための機能性も追及している。Bluetoothは4.0で対応プロファイルはA2DP v1.2、AVRCP v1.4、HFP v1.6、HSP v1.2。aptXには対応していないが、通話と音楽といった2台のデバイスで別々にBluetooth接続が可能な「マルチポイント」機能を搭載している。

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ベースモデルはEシリーズの最上位モデル「E55BT」。2万円以下で手に入る、軽快なワイヤレスヘッドフォンだ
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こんなふうに小さく折りたためるので、持ち運びにも便利。気軽に外へ連れ出そうというメッセージ性をデザインに感じる

 ではクインシーエディションはというと、まずブラック/ピンクというカラーリングからして、想定ユーザーが明らかに異なると感じられる。しかもベースモデルとはうって変わって上品なマット調で、クインシーモデルを表す「Q」のロゴと、イヤーカップ付け根部分がゴールドの配色に、落ち着いた大人の印象を受ける。

 イヤーパッドのレザーもベースモデルより柔らかく、ヘッドバンドも統一感のあるレザーフィニッシュ。クインシーの娘が監修しているというマテリアルチョイスの効果はテキメンで、実際にベースモデルと並べて見てみると、10代の学生と30代のキャリアウーマンくらいの印象の違いがある。同じカタチでも素材感でここまで印象が変わるものかといういい例だろう。

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ベースモデルはジャージの様なファブリックのヘッドバンドや、樹脂のイヤーカップといった素材感が若々しい印象を与えたが、クインシーエディションではヘッドバンドがレザーで、イヤーカップはマット仕上げ。フィニッシュにオトナな統一感がある
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マテリアルチョイスはクインシーの娘が関わったというだけあり、上品なデザインに感じられる。イヤーカップが折れ曲がるリング部にマットゴールドをあしらったのもいい

 クインシーエディションもうひとつの特徴が、クインシー・ジョーンズの声による操作アナウンスだ。電源ON時に「Powering on」、OFF時に「Powering off」、Bluetoothスタンバイ時に「Your JBL is ready to pair」そしてペアリング完了時には「Connected」というアナウンスが入る。

 僕はクインシー・ジョーンズにそれほど深い思い入れがあるわけでもなく、クインシーのアルバムを集めているわけでもないのだが、おそらく洋楽好き、それもアメリカン・ミュージック好きが耳にすると、思わずニヤリとしてしまうような演出ではなかろうか。ちなみにベースモデルのアナウンスはギターのリフのような音と「ブーン」という低音の組み合わせ。なぜか接続解除時だけはベースモデルとクインシーエディションのどちらも「ピー」という電子音。「どうしてここだけ?」という疑問がグルグル巡る……。

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Bluetoothで使うと、電源ON/電源OFF/Bluetoothスタンバイ/ペアリング完了というタイミングで、クインシー・ジョーンズの操作アナウンスが入る。接続解除時だけは何故かベースモデルと同じ電子音。なぜだろう……?

肝心の音はどうだ? まずはリファレンス音源で基本をチェック

 外観や使い勝手は確かに良さそう、だけど僕がこのモデルで最も気になるのは、やっぱりクインシー・ジョーンズとJBLという組み合わせによる音楽だ。ということで、ここからは音のインプレッションをお伝えする。リファレンスプレーヤーはAK380、無線モデルではあるが、ヘッドフォンの真の実力を試すために有線で試聴をした。

 まずは定番中の定番「Hotel California」から。イーグルス最大のヒット曲であり、ハイレゾ配信でも有数のヒット曲のため、一度は耳にしている人も多いだろう。聴き所としては冒頭のベースとギターの撥弦ニュアンスの違い、ヴォーカルの力強さや音の分離といった部分だ。

 まずベースモデルはふくよかな音が特徴的だ。音は全体的に甘やかで、それこそ“コリタスの香り”が漂ってきそうなほわっとした感触。演奏の中にヴォーカルがよく馴染んでいて、音楽としての調和が取れている。

 一方のクインシーエディションは、ベースモデルが同じとは思えないほど音の方向性が違う。冒頭のギターには煌めきがあり、ベースはとても安定感がある。エレキギターは伴奏として音楽の骨格をしっかりと構成し、強固な土台の上に豊かなヴォーカルが展開される。何よりも1音1音が演奏に埋もれることなく、鼓膜を通して耳に響くのは流石だ。

 次も定番曲「Waltz for Debby」。ビル・エヴァンスの名演はハイレゾ版でも大ヒット曲で、音よし、曲よし、演奏よし、おまけに多くの人が聴いているとあれば、これ以上望むものはない。

 ベースモデルではHotel Californiaで感じたふくよかで甘やかな音がこの曲でも聴かれた。ヴィレッジヴァンガードの幻を見るようなメロウな響きの中でベースがグイグイと音楽を前に進め、ビル・エヴァンスはフワリとしたタッチで美しい旋律を奏でている。僕は当時のニューヨークのリアルな空気など知る由もないが、伝説的な名手をBGMにダイナーを愉しむ夜を夢想せずにはいられない、そんな不思議な雰囲気を持つ音だ。

 これがクインシーエディションになるとガラリと雰囲気が変わり、音にグッと存在感が出てくる。ピアノのタッチはとても身が詰まっていてハリがあり、ダブルベースのマルカートとスネアの刻みがしっかりと音楽を前進させている。バランス的には強調感のないナチュラルな音だが、決してモニター的ではない、リスニングの愉しみのツボを的確に押さえたものだ。個人的な所感としては、ジャズならばもう少しだけベースが利いていると音楽的に心地よいと感じたが、このヘッドフォンの上品な音色による聴きやすさは、目を見張る(耳を聴き張る?)ものがある。

 さらに音色と響きの美しさを確かめるべく、ヴァイオリンの名手ヒラリー・ハーンによるバッハ「ヴァイオリン協奏曲第2番」をチョイス。

 音の印象はというと、ベースモデルはやはりメロウな響きが特徴的だ。室内楽に没頭するようなホールトーンの濃密さがあるわけではなが、「細部表現が」とか「S/Nが」とかいった神経質な聴き方にならない音で、気に障るようなこともなく聴き疲れしない。これをBGMとして流せばきっと贅沢な時間を過ごすことができるだろう、そんな事を感じた。

 対してクインシーエディションは、相変わらず低音から高音までの全音域がしっかりと鳴っていて、音楽に安定した力強さを感じる。ヴァイオリンの音がしっかりしていて太く、それでいてチェンバロの微細音とその響きまでしっかり聞こえる豊かさには好印象だ。音楽の支えとなる低音がとても丈夫なため、ヒラリー・ハーンのヴァイオリンが奔放にメロディーを歌っても破たんしない。

JBLとクインシーに合わせて、ジャズとマイケル・ジャクソンを試してみた

 お決まりの音源はここまでにして、ここからはそれぞれのヘッドフォンが得意そうなジャンルで楽しんでみたい。3曲を聴いたところでベースモデルには、小さなJBLが鳴るジャズ喫茶の趣を感じた。スイートな音で音楽の雰囲気を演出する様は、コードとモードで自在に音楽の性格を描き分けるジャズによく合うかもしれない。

 一方クインシーエディションに対しては、ポップスを切り拓いてきたクインシー・ジョーンズのキャリアを音に感じた。一音一音の分離のよさはヴォーカルをグッと引き立てる重要な要素であり、ベースモデルよりも存在感のある音に対してはアーティストのキャラクターがより強調されるポップスの音楽性が見え隠れする。

 そういうわけでジャズとポップスをそれぞれ2曲ずつ聴くことにした。まずはジャズから、楽曲はオスカー・ピーターソン「You look good to me」。ソウルフルな演奏が魅力のカナダ人ピアニストで、気分良く演奏していると歌いだすことでも有名だ。ささやきのように録音に入っているこの歌声も、オーディオ的には聴きどころのひとつ。楽曲としてはストリングとピチカートによるダブルベースの音の違いなどが聴きどころだ。

 そんなオスカーのピアノをベースモデルはどのように鳴らすかというと、まず冒頭のストリングベースは柔らかく歌い上げている。ビル・エヴァンスと同じくピアノはフワリとしたタッチでトゲが無い。甘やかな音色が不思議な空気感を作って、このヘッドフォンはジャズを流すとなぜか雰囲気におぼれるように感じる。その感覚はまるで魔法にでもかけられたようでさえあり、好きな人にはたまらない魅力にもなるだろう。

 だがクインシーエディションで聴くと、こちらはよりハッキリした音で、聴きどころに挙げたオスカーのリアリティーあふれるささやき声にぞわっとする。身が詰まった音は弾みのよさとなってベースに表れ、ピアノのタッチは細密、ドラムは子気味よくブラシ音を響かせる。この楽器間の音の対比がまるで会話を楽しんでいるようで、自由なアンサンブルにワクワクする。

 もう1曲はグレン・ミラー・オーケストラによる「In The Mood」。ビッグバンド・ジャズのスタンダードナンバーで、ジャズの大編成としてハーモニーやリズムとソロメロディーとの対比、あるいは楽器の音色の違いなど、聴きどころが多い。

 ベースモデルで聴いてみると、これもやはり甘やかで、空気を聴くというか演奏に身を任せるというか、カチッとした端整な音とは違う、トラッドなジャズ独特の雰囲気を感じる聴き方がよく感じる。

 これがやはり、クインシーエディションでは音の雰囲気が一転。見通しがよい現代的な響きとなり、しっかりと分離した音がハッキリと鳴る。サウンド自体も骨太で、大編成でもどんな楽器がどんな鳴り方をしているかという事が実にわかりやすい。

 さてクインシーエディションが得意そうなポップスはどうだろう、ここはクインシー・ジョーンズに敬意を表し、氏が手がけた世界的アーティストのマイケル・ジャクソンをチョイスした。

 ハイレゾ配信サイトmoraのアーティストページには「ギネスブックには最も成功したエンタテイナーとして記録されており、“Thriller”は人類史上もっとも売れたアルバムとして認定を受けている」とその偉業が記されている。「King of Pops」と称えられる彼の音楽から、今回は「Thriller」と「Smooth Criminal」で音を試してみたい。

 まずスリラーだが、ベースモデルの音は音楽の雰囲気を出すのに長けている。その軽快感がポップスというジャンル名をよく表しており、まるで“神経質になるのが間違いだぞ”と曲にたしなめられているような気さえしてくる。この偉大なアルバムが生まれる3年前に初代ウォークマンが誕生し、「音楽を待ちに連れ出す」という文化が生まれたわけだが、なるほど、確かに軽やかなポップスは変わりゆく街の風景とともに愉しむのがぴったりだ。

 ではプロデューサー・クインシーはマイケルをどう歌い上げてくれるだろうかというと、軽さの中にカッチリしたお行儀のよさが聴かれた。やはり高い解像感が特徴的で打ち込みリズムが小気味よいのだが、それ以上に印象的なのはマイケルの声がグッと浮き立ってきて、身の詰まったボリューミーな音がよく伸びるということだ。ああ、やはりアメリカを代表するポップスのプロデューサー。どんな音楽もきれいに流すが、人間の声が最も心に響く音作りを心得ている。

 より音が先鋭的なスムースクリミナルでは、さすがのベースモデルでも刺さるような高音が聴かれた。録音の影響が大きいのだろうか、今までの傾向とは違って勢いがある。シンセサイザー主体のとてもモダンなサウンドは、タテのそろい方が良く出ていて子気味よい。

 クインシーエディションはこの特徴的な音によい意味で緊張感が加わる。バチッとど真ん中に定位したマイケルのヴォーカルがしっかりと立っていて、存在感がベースモデルより一段も二段も上だ。研ぎ澄まされたキレが更に鋭くなり、印象的で脳裏に残る。「スパッ」という擬音がまったくよく合う。

クインシーエディションは「もっと鳴らしたい」に応える1本

 以上、7曲を聴き比べしてみたが、いかがだったろうか。僕が感じた傾向は「気軽なベースモデル、しっかり聴けるクインシーエディション」だ。

 実はレビュー中に、ベースモデルでオスカー・ピーターソンを聴きながら「きっとこのヘッドフォンは、こんな風に音とにらめっこするような聴き方自体がナンセンスなんだろうな」と感じていた。編集部帰りに手元のiPadで何気なくBluetoothを使ってみたところ、Amazon Musicでスピッツ「ロビンソン」などを流すと、僕の印象を裏付けるようにベースモデルではとても手軽によい雰囲気を味わえた。

 さらにBluetoothでiPadに入っている「Listen!」(放課後ティータイム)のwav音源を流すと、これまた非常によいノリだ。一方のクインシーエディションで同じことを試してみると、Bluetoothのというフォーマットの限界から来る響きの浅さが気になり「もっと鳴るはず」という欲求不満感が払拭できなかった。

 僕の結論は「ベースモデルは定額制音楽配信をワイヤレスで楽しむよいオトモ、クインシーエディションはワイヤレス“も”使えるオトナな良音」としたい。自分の音楽スタイルに合わせて、カジュアルとシリアスが選べるラインアップになったことがとても喜ばしい。