AppleはiPod nano、iPod shuffleの販売を終了しました。それまでアクセスできていたURLを開くと、Apple Musicの案内のページに飛ばされてしまいます。

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「https://www.apple.com/jp/ipod-nano/」にアクセスしても、今はApple Musicのページにリダイレクトされます

 単体でネット接続する機能を持たない「同期型」のデジタルミュージックプレイヤーだったiPodシリーズは、確かにその役割を終えていたということなのでしょう。

 米国ではストリーミング型音楽の「Spotify」が、iPodに引導を渡したという意見も見られます。ダウンロード&同期か、ストリーミングか、という音楽データの流れ方の違いはもちろんありますが、それとともに、YouTubeでの無料音楽と、iTunes StoreやCDなどの有料音楽という軸を立てることもできるでしょう。

 結果的に“無料”の“ストリーミング”で音楽を楽しむスタイルに対応できなかったため、iPodの終焉を迎えた、とまとめることができます。

完全にしまりのないものになった筆者の今の音楽ライフ

 筆者は6年前に米国に渡ってくるとき、CDというCDをブックオフ行きの段ボールに詰め込んで、日本の家財とともに引き払ってしまいました。2011年ですので、まだまだiPod classicも販売されていた頃です。

 iTunesのライブラリは数百GBとパンパンになっていて、その中からお気に入りのアルバムやプレイリストを選んでiPodに同期し、それを持ち出すという音楽ライフは、米国に渡ってきても、プレイヤーがiPhoneに変わって継続していました。

 容量が多いので、入れ替えるタイミングは少ないのですが、自分が今週は何を聴くのかという意志がハッキリとした、メリハリのある音楽ライフを送っていたと当時を振り返ることができます。季節やそのときの気分を音楽で思い出せる程度には、気を遣って音楽を聴いていました。

 ところが、今はというと、もう完全にそうした音楽選びへの感性は失われてしまったように感じています。

 Apple Musicの提供以前からiTunes Matchを利用しており、iTunesライブラリのすべての楽曲はAppleのサーバに上がっているか、Appleが配信している楽曲とマッチされました。そのため、iPhoneに注意深くアルバムやプレイリストを選ばなくても、いつでも検索して自分が持っている音楽を聞くことができるのです。

 たとえば「2001年頃のCafe del Marコンピレーションがよかったなー」と思えば、Apple Musicに収録されているかどうかは関係なく、すぐにMacでもiPadでもiPhoneでも、Apple TVだって、聞くことができるのです。

 それに加えて、Apple Musicには膨大なカタログがあり、常にアルバムやプレイリストが追加されていきます。これを自分のライブラリに、ワンタップで追加できてしまいます。それまでCDを買っていた身からすれば夢のようなサービスである反面、限られたコストや、限られた容量の中から音楽を選ぶ、という慎重な体験は失われました。完全に。

意外とうれしいのが自動生成のMix

 Apple Musicもそのあたりに気を配り始めたのかもしれません。

 最近Apple Musicを開くと、「New Music Mix」や「My Favorite Mix」、「Chill Mix」といった具合で、最近聴いた曲や、自分の好みに応じたプレイリストを毎週自動的に生成して、「For You」のコーナーに掲出してくれるようになったのです。

 先週よく聞いていたジャンルの音楽をまとめてくれるというのは、なかなかうれしいものです。また、取りあえずこれ聞いてみたら? 的な「New Music Mix」も、何か新しい音楽をとりあえず、というときに手が伸びます。

 ちなみに、テツandトモさんの「20周年で、なんでだろう」が新曲のプレイリストに選ばれて入っているのは、なんでだろう。そして、「糖質制限ダイエットやってみた」という曲(があるんですね!)がやはり新譜から選ばれているのは、食生活を見抜かれている!?

 これらのミックスがうれしいのは、再生履歴の統合という感覚が得られる点もあります。これまで、デバイスごとに再生履歴が残っていたため、iPhoneで聞いたりMacで聞いたりしていると、その履歴がバラバラに蓄積されてしまっていたため、こまめに気に入った曲を、適当な新しいプレイリストに追加しておかないと、「あのとき聴いた曲、なんだっけ」という状態になってしまっていたのです。

 確かに明示的に、これは気に入ったと記録することも大切なのですが、ついウォーキングやエクササイズ中に聞いたときには、その追加作業が面倒で……。Apple Musicやミュージックアプリ自体に、まだまだ体験の改善が必要な要素なのかもしれません。

持ち物としてのiPodは残るか?

 iPodもデジタル機器であり、iPhoneの中の1つの「アプリ」として統合されてしまいました。ただ、そうしたデジタル機器に囲まれた生活の中でも、紙のノートへのメモやスケッチが根強いのは、そこに異なる体験があったからでしょう。

 音楽を聴くフィジカルな体験というと、アナログプレイヤーがあります。米国でも伸びていますが、これを気軽に持ち出すわけにはいきません。iPodでいう体験は、音楽を聴く前の準備の部分、つまりプレイリストを作ったり、それを同期しておいたりという部分でした。

 ストリーミング型で失われた、音楽を聴く(準備)の体験は、意味がなかったものなのか、あるいは音楽と向き合う1つの方法を提供してくれていたのか。個人的には後者だったのではないか、という印象があります。