悲しみや苦しみを抱えた人を
優しく見詰めるこころを持とう

「本当に多くの人に助けてもらって、とても感謝しています」

 東北の被災者の方々の多くは、こんな言葉を口にされています。被災者が「何で私だけがこんな目に遭わなければならないのか」と、不運や悲しみを強くアピールする場面をあまり目にすることはありません。

 だからと言って、受けたストレスに対して決して鈍感なわけではありません。被災者の方々のこころにある悲しみや苦しみが、小さいわけではないのです。

 表面に出ている感情だけを見ても、その人の抱えるストレスはわかりません。世の中の人がすべて自分の感情をアピールするとは限らないのです。

 ところが、今は感情が表に出さない人は鈍感だとか、ストレスに強いと思われてしまいがちです。

 感情が表出していないのだからもう立ち直っている。あれほどの災害に遭ったというのに結構平気なものなんだね。そんなあらぬ誤解を受け、支援の輪から忘れ去られてしまうことが非常に怖いと思います。

 だからと言って、こころの内にある感情をすべて吐露してもらったほうがいいわけではありません。全部吐き出したから楽になるとは限らないのです。被災者の方の中には、悲しみを吐き出したい人がいる一方で、悲しみを表現しないことを自ら選択された方もいらっしゃるのです。

 人が悲しみや苦しみを抱えているかどうか。これをその人の表層に表れた態度だけで判断するのは危険です。

 私たちは、悲しみや苦しみを抱えた人が発する小さなSOSを感受するこころを持っておく必要があるのではないでしょうか。

「頑張っていらっしゃいますね」

「何かあったときには、遠慮しないで何でもおっしゃってくださいね」

 そんな言葉をかけられる配慮を持つことが、私たちに今求められているような気がしてなりません。