まずは少しずつ「知ってもらう」ことから始める

 ここで難しいのは、提案されたやり方が、従来の確立された手法とは大きく異なることだ。やはり当初は、現場での理解を得るのに苦労したとGH氏は振り返る。

「新たな手法が持ち込まれることで、自分が担当するルーティン業務にどれほどの影響があるのか、現場が不安になるのは当然でした。ガバナンスもシステムも確立された、歴史ある磐石な企業だからこそ、それをたやすく破ることなど許されるはずがありません。

 だから私は、従来の保険業務への影響は一切なく、あくまでも『お客さまの使い勝手を改善すること』だけが目的であると、周囲に説明して回りました」

 徐々に理解が得られたものの、スプリントの原則である5日間には程遠く、最初は3時間のワークショップからのスタートとなった。内容は、スプリントウィークの初日に行う「マップ作成」のつまみ食いだった。

「ワークショップの参加メンバーは20名。本来のスプリントは7人のチームをつくるべきということなので、この人数も本来のスプリントとしてはNGですよね(笑)。しかしまずは、こういうやり方があるんだということをみんなに知ってもらうことから始める必要がありました。

 みんなでロールプレイをやりながら、お客さまをきちんと理解し直そうと、サービスの流れをマップで整理しました。そしてどの部分が弱いか、ホワイトボードの前で話し合いながら印をつけていきました」

「つまみ食い」をするにつれて理解が得られる

 また、本来のスプリントであれば2日目に行う「クレージー8」(1枚の紙を折って8つのスペースに分け、8分間でアイデアのバリエーションを8つ書き出す)は、ときには4ラウンド以上も行った。

「個々の参加者がアイデアをたくさん書き出すのはとても苦しい作業ではありましたが、自分が面白い案を出してやろうというゲームのような雰囲気になり、いままで交流のなかった部門間にも交流が生まれました。

 セールス部門がWebデザインに興味を持つなど、チームとして一体感が芽生えるのを感じましたね。こうした、本来の目標以外に、想像もしなかった側面がありました」

 5日目に行う、申し込み画面のプロトタイプを実際にテストしてもらうユーザーのサンプルは、日本各地から10名以上を集めた。被保険者全体の数からすれば、比較的少ない人数の検証結果がなぜ重要と言えるのかという批判もあった。

 また「時間をかけるからこそいいものができる」という考え方も根強く、こうしたスプリントのスピードの速さに対して、アウトプットのクオリティを疑問視されたこともあったという。

 だが、スプリントの手法の「つまみ食い」のたびに、社内の各部門で影響力をもつ決定権者に一部だけでも参加してもらい、その都度フィードバックをもらうようにしていたこともあり、最終的には「お客さま第一主義」という一つの目標に向かって確実な一歩を踏み出せたとGH氏はいう。

 実際、このユーザーテストのビデオはいまでも繰り返し見られるほど貴重な資料となっているそうだ。