宅配便シェア1位のヤマト運輸を中核とするヤマトグループは現在、グループ総合力の強化に力を入れている。その要となるのが、グループ横断的なソリューションビジネスの推進やグループ内のITガバナンスの強化だ。ヤマトホールディングスの執行役員としてこれらの施策を一手に率いるのが小佐野豪績氏。情報システム戦略を通じてヤマトグループが目指すもの、そして次にくるITの役割についてキーパーソンに聞いた。

震災後、注目を集める「サプライチェーン分散化」

「宅急便」を軸にグループ総合力強化を図る<br />ヤマトホールディングスおさの・ひでのり/ヤマトホールディングス株式会社 経営・事業戦略、IT戦略、ソリューション・ラボ担当 執行役員。1965年生まれ。1988年ヤマト運輸に入社し、オペレーション部情報システム課長を経て、2005年にヤマトリースに社長として出向。2008年からボックスチャーター社長を務めた後、2010年4月にヤマトホールディングス執行役員就任。 Photo by Jungae Lim

――東日本大震災の後は、企業向けのBCP(事業継続計画)に関連する問い合わせが増えているそうですね。

 これまでのサプライチェーンは、物流拠点の集約化によるコスト効率化が主流でした。それが東日本大震災を経て、サプライチェーンの分断により甚大な影響を受けた企業では、拠点の分散化に注目が集まっています。

 しかし通常、分散化は在庫管理が複雑になり、在庫が増えてしまいます。そこで、たとえばヤマトの拠点を自社倉庫のように使い、Webサイトを使って在庫の状況などを「見える化」するサービスを使えば、分散した拠点をあたかも一つの大きな倉庫であるかのように一元管理できる。リスクを分散しながら在庫管理も効率化し、トータルコストを抑えられます。震災以降、こうしたサプライチェーン分散化の問い合わせが増えています。

――震災前から、もともとBCP向けに提供されていたのでしょうか?

 実はこのソリューションはもともと、通販事業者向けに提供していたものなんです。通販業界は競争が激しく、発注の翌日に届くだけでは利用者の満足は得られない。注文当日に届くぐらいのことが求められています。ヤマトグループの拠点ネットワークをご利用いただけば、どこに荷物があるかを意識しなくても、当日に荷物が届く仕組みが可能になります。「倉庫のクラウド化」ですね。
ヤマトグループでは2008年から、こうした通販向けソリューションに代表されるように「お客様の課題を解決するサービスを提供する」という、ソリューション型ビジネスに力を入れ始めました。