岩手県のローカル鉄道「三鉄」を廃線から救え!<br />全国の鉄道ファン、萌え系ファン、マスコミがエール合戦三陸鉄道公式ホームページ。すでに「復興祈願レール」は売り切れ! それ以外にも売り切れグッズが続出し、人気のほどがうかがえる。

「鉄道オタク」とまではいかなくても、鉄道に少し興味のある方なら、「三鉄」という言葉を聴いて、「ああ、あそこか」と思い当たるのではないだろうか。

「三鉄」とは、「三陸鉄道」の通称。岩手県北部の宮古―久慈を結ぶ「北リアス線」と盛―釜石間の「南リアス線」から成るローカル鉄道。昭和59年に全国初の第三セクター式の鉄道として開業した。以来、地元の足として活躍するとともに、風光明媚な車窓風景や、レトロ仕様の車両などで、鉄道ファン、旅行ファンにも愛されてきた。

 この鉄道、3月の東日本大震災で駅舎が流され「消滅」するなど、壊滅的な状態に。だが、社員が一丸となり、わずか地震発生後5日で一部復旧、話題を集めた。

 とは言うものの、現在でも、全約108キロのうち、計約71キロが不通。復興費用は、100億円を超えるとされている。もともと、赤字路線であったこともあり、深刻な経営危機に直面し、一時は全面復旧を断念せざるを得ないのではないかという情報も流れた。このピンチに、全国のファンが立ち上がったのだ。

 鉄道関係の著作が多数ある原武史・明治学院大学教授が宮古市を訪れ、開業している区間の切符を1000枚購入するなど、地元を訪れたり、ネットを利用して切符・回数券を購入したりする人も多数出現、オンラインショップなどを通じたグッズの売れ行きも、震災前の数十倍にも及んでいるという。三陸鉄道では、グッズを委託販売しているが、委託先として名乗りを上げる団体も増えている。

 もともと同鉄道では、2009年から「久慈ありす」「釜石まな」という萌え系オリジナルキャラが“活躍”。おもちゃメーカーから三陸鉄道の運転士姿のフィギュアも発売されるなど、「鉄」だけではなく「萌え系」の熱い視線も集めているようだ。

 さらには、「鉄道コム」(運営/朝日インタラクティブ株式会社)と講談社のコミック誌『Be Love』が連携し、同誌で連載中の犬の駅長が活躍する『スキップ!』の主人公が応援団長を務める応援企画「応援しよう!三陸鉄道」を立ち上げている。また、神奈川県川崎市の若者たちが2008年に制作した記録映画『おらほの鉄道~三鉄奮闘記~』が10月に同市でチャリティー上映されるなど、支援の輪は様々な形で大きく広がっている。

 三陸鉄道でも、6月には被災したレールを切り分け、「復興祈願レール」として販売を始めるなど、積極的な取り組みを展開。7月には、2014年に全線復旧させるとの目標を発表した。

 見込まれる総工費110億円のうち、国からの補助金は約4分の1程度であり、楽観できる状況ではない。だが同社では、8月にはさらに広告費30万で自分の好きなデザインが車両のヘッドマークになるオーナー募集を始めると発表。鉄道ファンを中心に話題を呼びそうだ。

 三陸鉄道は、もちろん被災前から、ローカル鉄道ならではの魅力満載の鉄道だった。だが同時に、支援の輪の広がりの背景には、「地域のために復旧したい」という熱い思いに支えられた懸命な取り組みへの共感があるように思える。

 鉄道そのものの魅力に加え、多くの人が、「三鉄」のあり方に“物語”を見出し、それをそれぞれのやり方、それぞれの場で「共有したい」と感じているのではないだろうか。

(梅村千恵/5時から作家塾(R)