世界的な金融危機から3年。震源地となった米国は、まさに“日本病”ともいうべき停滞に直面し、もがき苦しんでいる。ギリシャなど過剰債務国のデフォルトリスクをはらむユーロ圏のような危機的状況ではないものの、超低金利・低成長に陥った日本の姿に重なる超大国の袋小路は世界経済の前途への悲観論を否応なく高める。しかしその一方で、2000年代半ばにサブプライムローン問題についていち早く警鐘を鳴らしたエコノミストのディーン・ベイカー氏は、ユーロ圏が無秩序な混乱に陥らない限り、米国経済の先行きを過度に悲観することは間違いだと語る。(聞き手/ジャーナリスト 瀧口範子)

――米国経済の現状をどう見ているか。

不安の種は欧州の混乱に尽きる<br />米国経済の足踏みが長期化しても<br />マイナス成長転落は考えにくいこれだけの理由<br />――ディーン・ベイカー 経済政策研究センター所長ディーン・ベイカー(Dean Baker)
ワシントンのシンクタンク、経済政策研究センター(CEPR)の共同所長。米国ではサブプライムローン問題をいち早く指摘したエコノミストとして有名。ミシガン大学で経済学の博士号取得。バックウェル大学助教授などを経て現職。世界銀行や米国議会の経済委員会、OECDのコンサルタントを務めた経験もある。近著に『Taking Economics Seriously』『False Profits: Recovering from the Bubble Economy』などがある。欧米の大手新聞やテレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。

 ここ最近、米国経済の二番底懸念を頻繁に耳にするようになったが、そのような無責任な分析は傾聴に値しないと言いたい。債務上限引き上げ協議の紛糾に象徴されるように、ワシントンに緊縮財政ムードが広がる中、大規模な財政出動が難しくなり、景気浮揚の決め手に欠けるのは事実だが、現状を分析する限りにおいては、けっして大きく底割れするような事態にはまだ至っていない。米国経済の現状と行方を正しく表現するならば、住宅バブル崩壊からの回復過程にあり、まだまだ低成長が続くということだ。

――その場合の低成長とは、どの程度の成長率を指しているのか。

 私の試算では、住宅バブル崩壊で失った需要は1.2~1.4兆ドルに上り、簡単に埋め合わせできるようなものではない。新たな大型の財政出動がないという前提で話せば、今年の成長率は2%前後になると見ている。下半期はガソリン価格が下がるなどして多少景気が押し上げられるだろう。ただ、それでも今年の成長率は年率換算で良くて2.5%程度が上限なのではないだろうか。来年(2012年)についても、あまり期待できないと思っている。

――低成長が何年くらい続くと見ているか。

 少なくとも今後数年間はこのままだ。どこかで低迷を脱する必要があるが、緊縮財政ムードが続くと仮定すれば、貿易収支の改善に頼るしかなく、それもドル安がさらに進むことによってしかもたらされない。

 米国政府はドル安を強く求めておらず、また貿易相手国も輸出市場を保持するためにドル安を望んでいない。となれば、貿易面での改善も期待できず、やはり低成長率と高失業率の期間が長引くという予測に行き着くほかはない。

 ただ、私は、米国経済が深刻なデフレに陥る、あるいは制御不能のインフレに直面するといった類のシナリオは杞憂だと考えている。現在、コアCPI(食品とエネルギーを除いた消費者物価指数)は前年比で2%をやや下回るくらいだが、そこから大きく変化することはないだろう。繰り返すが、要するに、退屈な低成長の時代が続くということだ。

――仮にその予想を超えて景気がさらに冷え込み、底割れするとしたら、何がきっかけになると思うか。