多様性と共存することで得られるものもある

 企業社会では、多様性を意味する「ダイバーシティ」の掛け声のもと、性別や国籍、年齢を問わずいろいろな立場や考え方の人材を取り込む動きが進んでいます。それが社員の力を引き出し、組織の総合力を高めることが広く知られてきました。

 多様性を担保しないと組織としての成長が見込めないということだと思います。

 これは、地域に置き換えることができると思います。あまりにもクリーンで純粋培養された町にしてしまうと、人のこころの成長には必ずしもメリットばかりではなくなってしまうのではないでしょうか。

 かつて、つくば市で自殺者が急増した時期がありました。

 この原因の一つに、つくば市の町のつくりが関係していると言われました。新しい近代的な都市ということで、機能的で不要なものがすべて排除された人工的な町だったからです。

 赤ちょうちんなどの一杯飲み屋街を作ると町の景観を損ねる、パチンコ屋を作るといかがわしい人が増える。そうした考えのもとに設計されたニュータウンは、全国どこへ行っても同じような様相を呈しています。

 もちろん、ニュータウンに住む人には問題が起こるというわけではありません。しかしながら、純粋培養された世界が健全な人を育むとも言い切れないのです。ニュータウンで開業する精神科医に話を聞くと、こころの問題を抱える人は決して少なくないといいます。

 私は、人が迷惑と感じる施設と共存し、そこに出入りする人たちを含めた町づくりをすることが、むしろ自然なことだと思います。多様なものと接することが、人や町を強くします。どれだけリスクを排除したとしても、天災が来れば一遍に生活が崩れてしまうことは、今回の震災で得られた教訓でしょう。むしろ、排除したことと引き換えに失ったもの、得られなかったものもあると思うのです。

 どれだけ安全を求めても、残念ながら人智を超えた力が働きます。それならば、多様な環境に身をおくことによって、社会や自然の変化に対応できる生活を目指すのも一案ではないでしょうか。

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 人が変わるのは本当に難しいと思います。

 被災地の復興、これからの日本をどうするか。みんなが嫌がるものを、いったい誰が引き受けるのか。どうすれば引き受けてもらえるのか。

 これまでの考え方を変えない限り、こうした問題は解決できないと思います。

 間もなく、震災から6ヵ月が経とうとしています。

 いまこそ、日本人はこの問題に真剣に取り組み、あるべき社会の姿を問い直す時期にきているのではないでしょうか。

 *6ヵ月にわたった本連載は今回が最終回となります。ご愛読ありがとうございました。10月3日(月)より香山リカさんによる新たな連載をスタートします。テーマも一新します。どうぞ楽しみにお待ちください。(編集部)