LPガスのリスク管理手法を徹底

 すでに利用者は20万世帯、ボトルの販売数量は年間650万本を超える予定(12リットルボトル)。

 トーエルの宅配水事業を説明することは、同社の優れたリスク管理を説明することでもある。LPガス事業者にとって、ガスを安全に利用できる仕組みをつくり、途切れることなく安定供給し、お客様に安心して使ってもらうようにするのが最大の責務だ。それを実現する体制の構築には、いっさい手抜きがあってはならない。なかでも安定供給は最大の使命である。

 トーエルが事業の多角化を検討するなかで、宅配水事業に注目したのは、ある意味で当然だった。中田みち社長は、「LPガスのリスク管理モデルや配送手法を、そのまま活用できるのが宅配水事業でした。LPガスという“火”だけでなく、“水”においても安全・安心・安定のサービスをお届けできます」と説明する。

薬品を使わずに完全殺菌・洗浄したボトルに非加熱・無菌充填する

 02年に「ハワイウォーター」の販売を開始し、事業は順調に拡大してきた。そのなかで、06年に自然豊かな北アルプスの天然水を原水とした「ピュアウォーター」の生産・販売を始めたのも、基本的発想は、リスク管理にあった。

 「輸入水では、為替変動や港湾ストライキなどのリスク回避に限界があります。お客様への安定供給を思うと、国内にハワイに負けない品質の原水を確保したかった」(中田社長)

人に優しいを、ビジネスの起点に

 12年春には第3工場が竣工する。新工場完成により日本最大級の年間1500万本ベース(12リットルボトル)の生産体制が整う。また同社の工場は、無人・無菌室・オールロボットによる生産で、製造から48時間後のテストに合格しなければ出荷されないなど品質維持にも厳格な体制が取られている。しかも、これら工場ラインを一般に公開して、見学ツアーを受け入れている。安全に対する自信がなせることであろう。

東日本大震災の緊急時にも対応できたほどの備蓄を誇るストックヤード

 そして、製造された水は、関東全域に設置された17ヵ所のストックヤードに備蓄、配送用として常時30万本(12リットルボトル)をストックしている。お客様のそばで安定供給するというLPガスのリスク管理と効率的な物流手法を踏襲したものだ。

 今春の東日本大震災では、これらのストックヤードからピュアウォーターが被災地に緊急支援された。

 「大震災以降さらに高まりを見せている飲料水の安全性に対する関心に、しっかりと応えられる体制を整えている」(中田社長)

 ところでトーエルは、生産基地を利用して、植物生産・養殖工場の事業化にも取り組んでいる。工場のエネルギー源になっているのは太陽光発電や、従来は廃棄処分されていたLPガス容器の再検査所で回収されたLPガス。そして水は、逆浸透膜を通したあとに発生するミネラル豊富な北アルプスの温水だ。

 環境への配慮を忘れず、従業員の雇用継続も図る。さらにコールセンターに勤める女子社員のために、事業所内保育施設も開園した。

 中田社長は、「安全・安心・安定というLPガスのリスク管理手法の究極の目的は、人に優しくあろうとすることであり、それはお客様の幸せ、従業員の幸せへとつなげられます。そして、そこにこそ次のビジネスの機会があるのではないでしょうか」という。