QP2R

「究極のアナログサウンド」という思想 このブランド、ただものではない!

 「あ、この音は“愉しい”」そう心から言えるプレーヤーに久しぶりに出会った。あまたのハイレゾプレーヤーがひしめく今、“良い音”のプレーヤーはあっても“愉しい音”のプレーヤーはなかなかない。

 Questyle(クエスタイル)というオーディオブランドをご存知だろうか? 中国の電脳都市、新センに本拠地を構える新興のブランドで、プレーヤーのほかにヘッドフォンアンプを販売している。そのいずれにもブランドの核となる特許技術「カレントモードアンプテクノロジー」が搭載されているが、これは中核的な信号増幅機能に、一般的な電圧増幅ではなく電流増幅を用いたアンプ回路技術だ。フルディスクリートで組まれる回路は特別なパーツを必要とせず、高エネルギー効率で歪が少ないという。

 この技術は創業者のJason Wang氏がゼンハイザー「HD 800」の魅力に取りつかれたときに、ヘッドフォンを鳴らし切るアンプがなかったため「それなら自分で作ってしまおう」として開発したものだという。以前お話を聞いた時に語っていたWang氏の音の目標は「究極のアナログサウンド」。音に対する明確な理想を持っているという点が、近年増加している一般的な新興メーカーと違う。確たる技術を持っていて、しかもそれを音作りの柱に据え、それらが一貫しているのだ。

 それなりの技術があれば“音”を出す機械はつくれる。しかしそれが“良い音”、ましてや人の心をつかむ“愉しい音”となると、作り手に確たる信念と哲学がなければにじみ出てこないのである。

QP2R
2016年の春のヘッドフォン祭で前モデル「QP1R」を日本向けに発表するJason Wang氏。「どんな音を創っていきたい?」と質問したところ「上質なレコードのようなアナログサウンドを目指したい」と返ってきたのが印象的だった

持てる全てを音に注ぎこむメーカー

 新製品「QP2R」はそんなWang氏のこだわりをギュギュッとポケットサイズに凝縮したプレーヤー。その開発姿勢は「あらゆるリソースを音へ」と表現するに相応しい。まず、商品タグに付いた数字は15万9800円。前モデル「QP1R」よりも3万円弱の値上げだが、シャーシやインターフェースは前モデルとほぼ変わらない。

 さらにイマドキのガジェットにも関わらず、Wi-FiもBluetoothも付いていない。操作さえディスプレーは非タッチパネル、クリックホイールは回すだけで真ん中以外ボタンとして機能しない。ワンクリック分のボリューム調整といった細かい操作の場合は、物理的なクリック感が伝わる前にソフト的な反応があることも。加えてデュアルmicroSDスロットの1基削減という、前モデルから明白に“退化”した部分さえある。

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無線モジュールは非搭載のため、背面のアイコン群に技適マークの姿はない
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前モデルにあった底面部のデュアルスロットも1基削減。このため最大ストレージ容量も内蔵と合計で265GBに低下した
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起動してまずやるべきことは、言語設定の変更。僕は突然中国語が出てきて面食らった。慌ててスマホのカメラを向けたので、写り込みはご愛嬌ということで

 欠点ばかりを指摘したが、一般的なプレーヤーで注力されるだろうこれらの開発リソースは、すべて音の改善につぎ込まれている。音質向上を常に至上命題とし、開発費もマンパワーもパーツの実装スペースも、あらゆるモノが音をよりよくするために振り分けられるのが、Questyleというブランドの特徴だ。QP2Rでの分かりやすい点を挙げると、DACチップはシーラス・ロジック「CS4398」から旭化成「AK4490」へ変更され、前モデルではDSD 5.6MHz、PCM 192kHz/24bitまでだった対応フォーマットがDSD 11.2MHz、PCM 768kHz/32bitへと進化した。近年増えつつあるハイサンプリング音源をネイティブで再生できるのは歓迎すべきことだ。

 それ以上に重要なのは、アップデートの目玉である2.5mm 4極バランス駆動への対応である。正確に言うと、フルバランス駆動のために“アンプ基板が新規に書き起こされた”ことだ。つまり外見はほぼ変わらないが、中身はほぼ別物レベルで更新されているのである。

 パッと見のカタチが変わると、目新しさで注目を集めやすい。だがしかし、Questyleというブランドは見かけで人を引きつけるのではなく、その分をすべて音に注力した。日本の代理店S’NEXTもそれをよく理解しており、日本初公開となった「ポタフェス 2017 名古屋」では「とにかく音を聴いてもらうことが重要」として、開発途中の試作機を試聴用に持ち込んでいた。

QP2R
QP2R最大のセールスポイントは2.5mmバランス駆動に対応したこと。これをするために、アンプ回路をデュアルモノラル構成で設計しなおした。microSDスロットが1基減ったのは回路スペースの確保のためだという
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製造会社は前モデルから引き続きFoxconn。面取り加工などは丁寧になされている

太く鮮やかで、自然な見通し、この音を聴くとワクワクする

 開発方針や設計思想などがすべて音に向いているとなると、俄然その質が気になってくる。これはもうこれは聴いてみるしかないというわけで、早速リファレンス音源を歌わせることにした。

 なお、メーカーが推奨する本機のエージング時間はなんと200時間(!!)。その姿勢に敬意を表して可能な限りの時間で鳴らしたが、機材スケジュールの都合により約120時間のエージングで試聴に臨んだことをお断りしておく。リファレンス機材はラディウス「ドゥブルベ・ヌメロキャトル」と純正バランスケーブルの組み合わせ、音源は「Hotel California」「Waltz for Debby」、そしてヒラリー・ハーンの「バッハ:ヴァイオリン協奏曲」だ。

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届いてすぐのパッケージチェックで最も気になったのが、エージングに200時間を推奨するというこのカード。オーディオ初心者が目にすると面食らうだろう

 一聴して感じるのは、見た目からは想像ができないほど音がガッシリと太いことだ。聴いていて安心するくらいに、とにかく身の詰まった音だと感じる。

 Hotel Californiaでは低音が安定しており、音が機敏に動いて音楽自体にメリハリが付いている。Waltz for Debbyでは巧みなダイナミクス表現を音楽へ存分に活かしており、ベースソロの終わりでピアノとドラムセットがグッと音量を上げると、それまでのちょっとジェントルな曲の色が見事に明るく変わる。

 音色はウォーム気味で明るく、ヒラリー・ハーンのヴァイオリンは響きが実に柔らかいが、芯はかなりしっかりしていて存在感がある。基音に対する倍音もよく乗っていて、そのおかげで特に低音がドッシリと安定して聴こえるのが印象的だ。

 この低音の豊かな響きは、高音にも“パッセージが映える”といういい影響を与えている。高域の速い動きは音が細いと貧相になるが、このプレーヤーは上から下までとても充実している。

 しなやかで自然な表現も持ち味のひとつだ。Hotel Californiaのギターは撥弦のアタックが痛くならず、優しさと力強さを兼ね備えている。Waltz for Debbyはダブルベースの弦が弾む様子が手に取るように判る。マスターテープに起因するアナログの残留ノイズをものともせず、冒頭からピアノもダブルベースも凄まじい生々しさだ。ドラムセットが入ると“痛くないのに鋭い”という驚異的なスネアの響きに思わずゾワッとした。

 ヒラリー・ハーンのヴァイオリンも実にしなやかで、豊かな響きの演奏を通してメロディーそのものが歌っているように聴こえる。このワクワク感こそ、オーディオの醍醐味のひとつだ。

 解像感の高さや定位の良さも見逃せない。Hotel Californiaではサウンドフィールド中央のヴォーカルをはじめ各楽器のポジションがしっかり安定していて、楽器の音を聴き分けやすく演奏の見通しが良い。奥に隠れがちなエレキギターまでしっかり存在感があり、アウトロ(後奏)のエレキギターは一気に存在感が増すという、非常に熱のこもったパフォーマンスを聴くことができる。

 Waltz for Debbyでも楽器の音像がハッキリとしていて、ドラムセットのスネアは鋭く、ハイハットはさわやかで小気味よく、オープンにすると響きがとても粒立っている。見通しの良さは高音だけでなく低音でも聴かれ「ダブルベースはこんなに動いていたか」と思わせるほどしっかりと楽器を聴き取ることができた。

 リファレンス音源を通して聴いた感想としては、音の輪郭がしっかりして音形がよく判り、アーティストの意図を読みやすいというものだった。

 それにしても、これほどまでに充実した音が手のひらに載るポータブル機から出てくることが、にわかに信じがたい。純A級フルバランスのチカラをまざまざと見せつけられた気分だ。

いとうかなこの対比やみのりんのまっすぐな歌唱など、個性をより引き出す表現力

 これだけ音が太くパワーがあって、さらに定位がしっかりとしているとなると、きっとアニソンが愉しいに違いない。そういうワケでアニソン・ゲーソンをたっぷりと味わおう。

 楽曲は太い音に聴き入る意味を込めて、いとうかなこ「アマデウス」。それから夏の終わりの一大イベント「アニメロサマーライブ」を少し意識して、茅原実里「ありがとう、だいすき」、そしてangela「Shangri-La」をチョイスしてみた。男性ヴォーカルも入れたかったところだが、手元に適当な楽曲が見当たらなかったのは残念だ。

 まずはいとうかなこ「アマデウス」、人気ゲームの続編「Steins; Gate 0」のテーマ曲だ。この曲の聴きどころはズバリ“対比”。様々な所に対比が現れ、それが曲の世界観を創る。音色、音程、音形、リズム、といった描き分けがどれだけできるかが勝負だ。

 楽曲は全体的に打ち込み音源で音は硬め、その中でひとり有機的ないとうかなこの声がとても映える。デジタル音に彼女の歌声を載せることでで生命が宿るようだ。

 メロの部分ではオケが16ビートを基調としたアップテンポ、ヴォーカルが8ビート基準のゆったりとしたもので、両者はテンポ感が違う。それがサビに入って16ビートのハイスピードでバチッと合い、楽曲の波ができる。こういったテンポ感の違いを音の正確性や解像力の高さでしっかりと描き分けていて、楽曲に深みを与えている。

 リズムもヴォーカルは有機的に揺れ、ドラムは極めて機械的に刻み続ける。その様が人間の想いにテクノロジーで挑むという作品世界とオーバーラップする。追い立ててくる伴奏に人間の声の熱さが抗うようにも感じた。

 次に“みのりん”こと茅原実里の「ありがとう、だいすき」。彼女を一躍有名にした長門有希のifをたどる「長門有希ちゃんの消失」のエンディングテーマで、みのりん特有のまっすぐな柔らかい歌唱がよく表れる楽曲だ。

 ビブラートでサウンド的なボリュームを出すのと違って、彼女の歌唱法はサウンドの芯がしっかりしていないと音像がボヤけてしまうが、QP2Rに対してそういう心配はまったく無用だった。太い音で立体的に引き立っており、コーラスが入ってもまったくみのりんが埋もれない。加えて定位が抜群に良く、いつもの環境よりも存在感がある。端的に言うとみのりんが近いのだ。

 アコギやウィンドチャイムといった、音の角も聴き取りやすい。楽器とみのりんの対比も鮮やかで、柔らかい音との描き分けでどちらの存在感もしっかりとしている。引き締まった低音はみのりんをよく引き立てていて、ピンポイントで入るピアノの弾み方がとても心地よい。

 間奏ではコーラス、ベース、オーボエなど、多彩な音が入り乱れるが、多彩な音色の描き分けが実に見事だ。そして楽曲最後の「ありがとう」というセリフで、それまでの曲を包みこむような優しさを音楽に与える。とても前向きなワンフレーズが、これ以上無いくらいに伝わってくる。これぞオーディオの「表現力」だ、たまらん。

 最後はangelaの「Shangri-La」、未知の巨大生命体との絶望的な戦いを続ける少年たちを描く「蒼穹のファフナー」のオープニングテーマだ。聴きどころはやはり強烈なインパクトを与えるビブラートなど、極太のAtsuko“姐さん”のヴォーカルだろう。

 これが貧相では台無しだが、QP2Rでそんな心配はご無用だ。Atsuko姐さんの歌い方はものすごく大量のブレスを使うもので、そのためangelaの音源にはよく姐さんのブレス音が入っているが、今回の試聴では鋭くかすれたブレスも聴かれた。

 もうひとつこの楽曲の特筆点として、1番のサビ頭「僕らは目指した」のフレーズを挙げたい。実はここだけ他の部分と違い、喉を締めてチカラを込め、意図的に“悪い歌い方”をしている。どんな歌であれ、歌唱の基本は肩の力を抜いて腹式呼吸でブレスを支えてキレイな声を出すことだが、それでは“閉鎖環境で戦い続け理想郷をめざす”というアニメの世界観が表現できない。

 ここではわざと声を荒げることで一縷の望みにすがる竜宮島(たつみやじま)の叫びを表現している。力量のある歌手の豊かな歌い方と、それをきちっと表現する機材環境があって、初めて音楽の物語世界へ飛び込めるのだ。シングルリリースから10年以上経って、新たに発見する新境地である。

音が教えてくれる音楽の“愉しさ”

 以上、純A級・フルバランス駆動のQP2Rで、アニソンの楽しさを存分に満喫した。単純にアーティストを近く感じるというのはもちろん、声の力強さをはじめとしたプレーヤーの高い表現力で音楽を通して、まるでアニメを観るように音楽を楽しむことができたのが印象的だった。“情熱のアナログサウンド”とも言うべき音の自然さには、人を惹き込む魔力がある。

 ただ、試聴中に気付いたことだが、ギャップレス再生がないことは少し気になった。交響曲や協奏曲などは楽章を跨いで音楽が続くことがあるため、音楽の世界に没頭するためにもぜひアップデートで対応してほしい。

 最後に使用上のアドバイス。プレーヤーの設定でHi/Mi/Loという3段階のゲイン調整が可能だが、ここをしっかりとイヤフォンにあわせることを推奨する。高インピーダンスのイヤフォンを駆動しきるハイゲインの音に触れれば、エネルギッシュな音を通してきっと音楽の感動に触れられるだろう。

 今回のレビューで僕からぜひ伝えたいのは、次の一言だ。

「この音は“愉しい”」