今回は東北を離れて、CSRの未来の話をする。ソフトバンクは7月、それまで営業、マーケティングのエースとして活躍してきた人材を、部長としてCSR部に投入した。そのことの意味についてである。

 最近の大学生は就活の面接で、CSR部への配属を希望するらしいが、一昔前はCSR部といえば、閑職とまでは言えないものの花形部署でも何でもなく、そこに配属される人もあまり仕事ができないイメージさえ世間は持っていた。

 筆者が社会貢献について勉強を始めた頃、社会セクターでは著名な先生と話をしていて「CSR部の人って、変な人が多いよね」と言い放ったのを聞いて唖然としたことがある。社会セクターの人間ですらそう考えている。たった4、5年くらい前でもそんな感じだったのだ。

 もちろん、当時のCSR部員の全員がヘンな人で使えない人ばかりだったわけではない。筆者は出会い運がいいのでヘンなCSR部員と知りあうこともあまりなく、深い見識を持った方々と知己を得ることもできた。

 三井物産の初代CSR部長の山本隆彦氏(現中部支社副支社長)もその一人で、とあるセミナーに参加したらたまたま山本氏が講師として登壇して「本業としてのCSR」の話をされていた。それで質問タイムに「御社の本業は何ですか?」と問うてみたら、こんな回答を返してくれた。

「明治に創業して以来、三井物産の本業は『国益』を守ることでした。いまの時代で言えば『地球益』とでも申しましょうか」

 これは筆者が考える本業論の、本質的な部分をついた回答だった。「本業」とは、その企業が何者であるかを明確に簡潔に語るものでなければならない。総合商社は食料を扱い、エネルギーを扱い、兵器も扱う。それはなぜか、という問いに対して「国益を守る」という答えはひと言で説明できてしまう。これが本業というもので、見事な答えである。筆者はいまだにこの話を講演ネタとして使わせていただいている。

 当時からCSR業界にもこんな人物もいたわけだが、いまではCSR部も人気部署になり、企業もCSRというものをまともに考えだしているので、特に30代くらいで優秀で意欲的な人も増えている。優れた施策を行なうCSR部も増えているし、CSR業界も進化していると思う。

多くの企業を取り巻く
「CSRは慈善活動」という呪縛

 しかし、変わらない部分もある。「CSRを企業の利益と結びつけて考える」ことへのタブー視だ。言霊詩人として有名な、原発と社会起業家に詳しいある大学教授は、経団連のセミナーなどで「最近、儲かるCSRなどとバカなことを言ってる輩がいるが、とんでもない。CSRとは利益とは次元の違う話である」みたいなことを言っている。このような考え方は企業社会でもいまだに強い。その空気感は多くの企業のCSR部員たちの呪縛となっている。