「生きているか、死んでいるかはどうでもいいこと。お父さんがお前を探している、待っている。これがすべて」

 福島第1原発から6キロの地点で津波に襲われ、亡くなった娘を、防護服を着ることもなく、死ぬ覚悟で探し続けた父親がいる。娘の遺体は、震災が発生した3月11日から約1ヵ月半近くにわたり、現地に放置されていた。

 震災直後に発生した原発事故により、この地域は立ち入り禁止区域になっていたため、警察や自衛隊、消防などが捜索ができなかったからである。

 それでも父親は、決死の覚悟で現地に潜入した。見つかった遺体は、すでに人の体であるのかどうかわからなかったという。それでも、父親は「俺の娘」と言い当てた。今回は、その「生き証人」に取材を試みた。


代わりに俺が死んでもいい
あの子を生き返らせて欲しい

最愛の娘、葉子さんの形見のギターを抱く白川司さん。横須賀中央駅前の商店街で、喫茶店を経営している(筆者撮影)。

「娘を返してくれよ。5分でいいから、生き返らせて欲しい。代わりに俺が死んでいい。残りの寿命を出す。あの子を生き返らせて欲しい」

 白川司さん(51)は、私の前で泣き始めた。腕には、3月11日の震災で亡くなった娘の遺品のエレキギターを抱える。神奈川県の横須賀中央駅前の商店街にある、喫茶「かぐ楽」(かぐら)を今年1月にオープンしたばかりだ。

 娘の葉子さん(25)は、福島県の東京電力第1原子力発電所から北に約6キロの浪江町請戸(うけど)地区で、津波に襲われた。それ以降、行方不明となるが、4月17日に遺体となって見つかった。

 遺体は、浪江町の請戸橋から西へ約400メートルのがれきに埋もれていた。直径40センチほどの丸太にしがみついていたという。

 24日に葉子さんの夫が安置所に行き、遺体の首にあったネックレスと、唇の上にあるほくろを手がかりに、「妻の可能性が高い」と名乗り出た。その後警察から、父親である白川さんが口の中の粘膜を採集された。DNA鑑定を経て、6月上旬に葉子さんであることが判明。19日に、郡山市で葬式が行なわれた。