フリーミアムモデルは、ネットやモバイル時代に非常に有効となったビジネスモデルでした。最初は無料でアプリを試してもらい、気に入った人、良い深く、長く使いたい人は有料サービスを利用するというものです。

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OS標準のメモアプリでクラウド経由の共有が可能になるなど、Evernoteは無料モデルの維持が危ぶまれているサービスです

 ただ、このモデルには規模が必要です。有料課金してくれる人の割合が1%だとすると、残りの99%の人たちが使う分を含む、運営や新機能の開発といったさまざまなコストを、その1%の人たちからの収入でまかなわなければならないからです。

 1%の人たちからの収入を運営費が超えてしまえば、投資を受けない限りはサービスが継続できなくなります。

 余談ですが、「99%」という言葉が耳に残っています。リーマンショックから米国社会が立ち直ろうとしているとき、1%のお金持ちが大半の富を占有している、というプロテスト活動のキャッチフレーズだったからです。

 この活動では99%側の人が怒りに満ちていましたが、フリーミアムのモデルの中では、1%側の人たちの心配が目立ちます。課金してまで使っているサービスが、課金していないユーザーの増加やその他の要因がために継続できなくなってしまってはどうしようということです。

有料サービスをいくつ使っている?

 さて皆さんは、有料アプリや購読型のサービスを、スマートフォンの上でいくつ利用しているでしょうか。

 映像や音楽のストリーミングサービスは、複数利用している人も少なくないでしょう。筆者の場合、Apple MusicとNetflixに加入していますが、一昔前はNetflixではなくHuluを使っていました。クラウドストレージ、メモサービス、ビジネスやクリエイティブのアプリ、ソーシャルメディア、IP電話など、多様なサービスが存在していますね。

 個人的にお得だと思うのは、MicrosoftのOffice 365。個人向けの場合、オフィスアプリの購読料に1TBのOneDriveストレージと、Skypeの毎月60分無料通話がバンドルされてくるため、DropboxやほかのIP電話のサービスをやめて、Office 365に一本化してしまいました。

 また、Adobe Creative CloudやEvernoteなども、購読プランに入っています。どれも日常的に使っていて、なくなっては困るサービスという位置づけ。まあ使わないサービスに契約する必要はないわけです。

購読制のメリットとは

 AdobeにしてもEvernoteにしてもOfficeにしても、購読型のサービスはずっとコストがかかり続ける、というネガティブな印象はありますが、一方で「使わなくなったらその時点で解約できる」というメリットもあります。

 いま、筆者が使っているサービスの中で、若干危うい立場にあるのがEvernoteです。

 iOS 11をiPad Proに導入すると、Apple純正のメモ(英語ではNotes)アプリが大幅に進化し、ロック画面をApple Pencilでタップすればすぐに手書きメモが開始できます。また文書のスキャン機能を備えたり、共有メニューからさまざまなアイテムを簡単に追加できる仕組みを備えるなど、かなり機能強化が目立つようになりました。

 Evernote自体はアプリは無料ですが、月額プランによって使える機能や保存できる容量が変わります。このまま純正のメモアプリで“いける”と思ってしまったら、Evernoteのサブスクリプションはカットしてしまうことになるでしょう。

 こうしたプランの見直しが可能な購読型サービスは、前述のようなネガティブな印象だけでなく、今必要なものをすぐに試す、ワンポイントで活用するといった自由度も提供してくれます。

 HuluとNetflixを行ったり来たりしているのもその理由で、見たいドラマを一通り見終えたら、もう一歩のサービスに移ってそちらの新作を楽しむ、という繰り返しを数ヵ月に1度することで、配信プラットホームの両方を楽しめるわけです。テニスシーズンになれば、テニス専門チャンネルに契約して4大トーナメントを楽しめば良いし。

 もし自宅のテレビのためにケーブルテレビに加入した場合、その業者でチャンネルを追加する以外に選択肢はありませんからね。

アプリ内課金からアプリ内購読へ

 Google Playは、AppleのAppStoreに先駆けて、定額制のプランの自由度を充実させました。毎月、年額だけでなく、3ヵ月、6ヵ月、といったプランを用意して、これがさまざまなジャンルのアプリで利用できるようになりました。

 Appleもこれに対抗して、それまで映像や音楽の購読型サービスに限っていたサブスクリプション課金をすべてのジャンルに広げ、1年以上契約が続いているユーザーからの課金の手数料を、30%から15%に割り引く仕組みを開発者に提供しました。

 これによって、開発者は「有料アプリ」「アプリ内課金」から、より継続的な関係をユーザーと作っていく「アプリ内購読」のビジネスモデルを採用できるようになりました。

 アプリ内購読のメリットは、確かに手数料を取られますが、課金や購読管理の仕組みなどをアプリストアに頼ることができ、小規模の開発者にとっては十分にメリットがあると考えることができます。

愛用のエディタアプリも購読制へ

 筆者が愛用していて、この原稿を書くためにも使っているエディタアプリ「Ulysses」は、つい最近、有料アプリから購読型へとビジネスモデルを転換しました。

 今までMac向けで4000円近くだったアプリは、年額4400円、月額520円の購読プランへと移行しました。もちろん既存ユーザーには割引きを用意し、年額3300円で利用できる優待を用意してくれました。

 開発者はブログの中で、葛藤を吐露していました。

 というのも、有料アプリの場合、バージョンアップはすでに購入したすべてのユーザーに対して無料で提供されますが、その開発費をまかなうためには、バージョンアップによって新規ユーザーを継続的に獲得できるという前提を敷かなければならなくなります。

 そのため、バージョンアップは既存ユーザーにとっても、機能改善や新機能の提供となりますが、ビジネス上は既存ユーザーのためのものではなくなってしまいます。この前提は、開発者にとっては、辛いものだったかもしれません。

 また、新バージョンを「Ulysses 2」として別アプリとして提供し、既存ユーザーにもう一度お金を払ってもらうという手法もありますが、Ulyssesはクロスプラットホームアプリであるため、MacはバージョンアップするがiOSは古いまま、というユーザーは、データのバージョンの混在などで最良の体験を提供できなくなる可能性があります。

 結果、アプリは無料で14日間の無料試用期間を設け、それ以降は有料でフル機能を提供する、という購読型プランへ移行したそうです。

何を購読するかで、モバイルライフを構成する

 エディタアプリは筆者にとっては仕事の生命線みたいなもので、特にUlyssesは複数の連載や原稿を非常に労力なく管理することができるワークステーションとして重宝しています。

 そうしたアプリについて考える事は、有料アプリか購読型か、という問題ではなく、「そもそもアプリがきちんと継続してくれること」が最大の関心事になります。

 もちろん許容範囲を超える高額な料金となると考えざるを得ませんが、割引を含めて毎月300円弱のコストで愛用中のエディタが継続するなら、納得がいくコスト、と理解することができます。

 しかし、エディタに300円増えたのなら、他の購読アプリをカットする可能性は大いににあります。例えば、前述のEvernoteを、Apple純正のメモアプリに移行する努力をしてカットしようとするかもしれません。

 今までは多くのアプリを無料で使ってモバイルライフを構成してきましたが、今後アプリの継続性のリスクを軽減するために購読型への移行が続くことになれば、やはり購読型のアプリ同士の競争になると思います。

 同時に、すでに新聞や映像配信サービスとケーブルテレビ契約ではそうであるように、スマートフォンの外にあるサービスとスマホ内の購読アプリの間でも、同様の競争が激化していくことになる、と考えて良いでしょう。