超高速取引にニーズ
回り道のないルート

 佐藤によれば、現在の海底ケーブルの差別化のポイントは「安定と低遅延」。各社とも通信できるデータ量そのものに大きな差はなくなってきており、通信障害の少ないルートの構築や、通信速度が競争軸になっているという。

 海底ケーブルは、年に1回程度切れることがある。大地震などの自然災害の影響もあるが、沿岸部では漁業活動や、大型タンカーのいかりでケーブルが切れてしまうことがあるそうだ。

「どの海域でどんな魚が何月に取れるかも分かるようになった。漁法も覚えてしまったよ」と佐藤は苦笑いするが、トラブル時こそ腕の見せどころ。迂回ルートを素早く構築し、通信障害をいかに減らすかが勝負の分かれ目なのだ。

 東日本大震災では、関東の沿岸部から米国方面に延びる海底ケーブルが軒並み切断されたが、三重県から米国へ至るルートへと切り替えてつなぎ、他社に先駆けて48時間以内での復旧に成功した。

 通信速度にこだわった佐藤の大仕事の一つが、2013年2月に完成した、東京と香港やシンガポールといったアジアの巨大都市を直線の海底ケーブルでつなぐ、「ASE」というプロジェクトだ。

 それまでは、東京からシンガポールへとデータを送ろうとした場合、その途中で中国やベトナム、マレーシアなどの拠点を“回り道”する必要があった。真っすぐつなぐことができれば、その分だけ通信速度を上げられる。

 折しも、コンピューターが極めて短時間のうちに自動的に株をやりとりする「超高速取引」が金融業界を席巻していた。

 より高速度な海底ケーブルに対する金融系の顧客のニーズが高いと思い立った佐藤は10年春、「すぐに取り掛からないと出遅れる」と担当役員に掛け合った。

 そのまま社長室に通され、構想を説明すると、「分かった。幾ら要るんだ」と当時の社長、和才博美は問い掛けた。佐藤が見積もりを伝え、「われわれが半額出せば、他社もついてくるでしょう」と応じると、「ばか野郎」と和才は一喝し、こう続けた。