では、李鴻章はどのように「考えて」この難局を切り抜けたのだろうか?

 彼は、まず「清」ではなく、その“上位概念”である「中国」のことを考えた。そう考えると清を残すより中国を残すことがより本質的であるとわかる。

 清は風前の灯火にあり戦う余力もないが、中国は100年やそこらでなくならない。そうであれば“99年間、貸し出す”≒“永久に渡す”という解決策はどうだろうか、と考えたのである。そこから、久久(永遠)と九九(99年)を掛け合わせるとんちが生まれた。

 こうして実際に清は、香港の割譲を逃れ、99年後の1997年に中国に返還されることとなった。

 今日、僕たちが抱える問題は、この李鴻章の問題と似ている。つまり、今日の問題の多くが「対立」をはらんでいる、ということだ。

 対立とは人が矛盾を望んでいる状態であり、矛盾とは、人がAとBの両者を成り立たせようとして「もがいている」状態である。だから問題解決とは、AとBを両者とも成り立たせるCの発見でなければならない。

 経営者の葛藤もいつもこの矛盾にある。

 守るべきは「人」か「利益」か、と言うときに、人を切って利益を出すのはある意味簡単だが、両者を同時に満たそうとするから経営者は悩むのである。経営とは要するに「矛盾を統合」する作業である。

 そんな矛盾の統合に、このメタ思考が役に立つ。メタ思考によってより上位から見つめた時に、隠れていた本質的な矛盾を初めて見抜き、その問題が発生している一次元上での“調和”を達成することができるのだ。

 アインシュタインも言うように、

我々の直面する重要な問題は、その問題を作ったときと同じ考えのレベルでは解決することはできない。

物事の本質を押さえると
応用可能性が高くなる

 メタ思考によって、上位概念を考えるとは、もっと言えば、物事の“本質”に迫ることを意味する。

本質には、「普遍性(応用がきくこと)」「不変性(時がたっても変わらないこと)」「単純性(シンプルであること)」という要素があるものだ。

 こういった本質を押さえると応用可能性が高くなる。