ブラジル中央銀行が8月31日、大方の市場予想に反して政策金利を12%へと0.5ポイント引き下げ、約2年ぶりの利下げに踏み切った。

 ブラジル国内では依然として物価が上昇し続けており、中銀は2011年以降5回もの利上げを実施、これまで一貫してインフレ抑制に努めてきた。直近でも7月にインフレ率6.87%を記録していただけに、市場関係者のあいだでは「当面利下げはないだろう」との見方がもっぱらだったのだ。

 それでも中銀が利下げに踏み切った背景には、国内景気の急減速に対する政府側の焦りがある。

 主要先進国の成長率見通しの下方修正が続くなど外部環境の悪化によって、ブラジルの経済成長率も10年の7.5%から一転、11年は4.1%にまで急低下する見通し(IMF予想)なのだ。

 昨年末にルセフ大統領によって任命されたブラジル中央銀行のトンビニ総裁は、「就任以来、政府に歩調を合わせがち」(市場関係者)だという。当の政府側は14年にサッカーワールドカップ、16年にはオリンピックの開催を控え、「中国がそうだったように、開催前に貧困層を解消すべく、インフレ阻止より目先の景気減速への対応を優先したかった」(米金融関係者)というわけだ。 

 さらにここにきて、世界景気の低迷で商品市況も一変、インフレ圧力が徐々に低下しつつある。

 石油需要見通しの下方修正に伴い、8月には原油価格が1バレル当たり100ドル前後から80ドルを割る水準まで急落。「これに遅行してインフレ率も下がる」(藤田勉・シティグループ証券副会長)ため、中銀自身も今後、利上げに頼らずとも、インフレ目標値である4.5%まではなんとか押さえ込めると判断したものと見られる。

 8月初旬にはトルコも利下げに踏み切っており、これにブラジルが続いた格好だ。先進国に比べて好調だった新興国もついに利下げモードにシフトし始め、景気減速が忍び寄る。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 池田光史)