アップル新本社「アップルパーク」が間もなくオープンする。仕事空間に柔軟性を求めるシリコンバレーでは、この壮大な円形構造物は時代に逆行しているという批判も聞かれるようだ。アップルパークを構想したジョブズの真意とは。


「我が社は世界最高のオフィスビルを建てられるかもしれない、と思っています」――これは2011年、スティーブ・ジョブズがアップル新社屋について言い表した言葉である(クパチーノ市議会での説明会にて)。

 いまやアップルパークの建設が最終段階へと進むにつれて、ジョブズ最後のプロジェクトの核を成す壮大な構想が明らかにされつつある。雑誌『ワイアード』は、この施設を「ヤバいくらい素晴らしい(insanely great)、もしくは単にヤバい」と表現したが、多くの点でまったくその通りだ。

 アップル新本社の規模は、米国西海岸にある他のいかなるハイテク企業よりもずば抜けている。キャンパス内には多くの建物が散在するのではなく、「リング」と呼ばれる1つの円形の建造物が設けられ(約26万平方メートル)、そこに1万2000人の従業員を収容する(規模感でいえば、リングの中庭はバチカン市国のサンピエトロ広場よりも広く、外壁は米国防総省の5角形庁舎をも囲める)。

 ノーマン・フォスターの設計による4階建てのガラス張りの建物には、多くのさまざまな技術的成果がシームレスに組み込まれている。屋根にある膨大な数の太陽光パネルの配列から、ワークステーションでの隠れたケーブル管理システムに至るまで、すべてはジョブズの妥協を許さない設計基準によるものだ。

 けれども、ジョブズの最も重要な指示の1つは、81万平方メートル近い敷地の80%を緑地にするというものであった。実際、建造物と自然の境界を曖昧にする、というのが構想の特徴となっている。従来この場所にあったコンクリートの駐車場は、新たな緑地と自然保護林へと場を譲った。ここには、干ばつや将来の気候変動の脅威に対処するために選ばれた観賞樹と果樹を含む、カリフォルニア固有の9000本の木々が植えられている。

 多くの人がアップルパークのオープンを大きな期待とともに待ち焦がれてきた。一方で、これほどの規模の野心的プロジェクトは、批判を避けて通れないものだ。前出の『ワイアード』の記事には、以下の記述もある。

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「『ロサンゼルス・タイムズ』紙の建築評論家が、リングを『時代に逆行した繭(まゆ)』と評したように、デジタルの完成予想図の審美的評価から始まった議論は、このところ社会的・文化的な側面への批判へと変わっている。

 たとえば次のような意見がある。アップルパークはお高くとまった、孤立した保護区であり、時流に見合った都市計画に基づく企業本社のあり方とは相容れない。(アマゾン、ツイッター、エアビーアンドビーはいずれも、技術系従業員を都市部に取り込もうという動きに乗っている。これは燃料を大量に消費する車や、Wi-Fi装備の無神経なシャトルバスで従業員を通勤させるのとは対照的なやり方だ。)

 あるいは、グーグルの計画的なマウンテンビュー本社とは異なり、リングの設計には柔軟性がなく、アップルパークは人々の働き方、働く場所、働く理由の潜在的な変化に適応する用意ができていない、という声もある(グーグルは本社社屋について、『新たな製品分野への取り組みに応じて、容易にあちこち動かせる軽量ブロックのような構造』と表現している)。保育所が設けられていないという指摘もある」

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 たしかに、これらの批評のいくつかは正しいことが証明されるかもしれないし、重要な指摘もある。総合的に判断して、これほどの複雑さと規模を持つプロジェクトは、入居後に時を経て初めて、真の評価ができるのだろう。

 私は、ハイテク企業の職場の設計を研究する者として、もっと根本的な疑問を投げかけたい。なぜアップルは、シリコンバレーのほとんどの同業他社とは異なる方向に進んでいるのか。言い換えれば、このプロジェクトの真の目的は何なのだろうか。

 その答えは、アップルにおけるすべての物事がそうであるように、スティーブ・ジョブズから始まる。