野田佳彦内閣が発足し、最初の内閣・党役員人事が行われた。野田首相は菅内閣の財務相であり、民主党代表選では一貫して増税による財政規律確立を訴えた。その是非は別として、「増税」を実現できるかが野田内閣最大の焦点だ。だが、「増税」には民主党内で異論が強く、特に小沢一郎元代表、鳩山由紀夫元首相の両グループがマニフェスト見直しと絡めて反対している。今回は、野田首相が党内の反対を和らげ、「増税」を実現できるかを、「野田人事」から検証する。

党執行部人事:
挙党態勢と現実的な政策実現の両立に配慮

 日本政治における与党の人事は、「政敵は閣内に取り込み、党は側近で固める」が鉄則だ。政敵には閣僚としての責任を与え、党は信頼する側近に任せることで、党と内閣が一体となって機能するからだ(前連載第58回)。だが、「野田人事」はこのセオリーに忠実ではない。

 民主党内には、「挙党態勢」構築の強い要求がある。野田首相が側近の幹事長起用を強行すれば、菅内閣時のような小沢・鳩山グループとの対立激化を招く。一方で「挙党態勢」を優先すると、「増税」の方向性がうやむやになる。だが、「野田人事」はこの難題に一定の解答を出している。

 まず、輿石東氏の幹事長起用だ。輿石氏は参院議員会長として、「ねじれ国会」下で野党との調整に散々苦労してきた。野党との対話の重要性が骨の髄まで沁みている。その意味で、「増税反対」「マニフェスト遵守」に固執する他の小沢・鳩山側近とは一線を画す。輿石幹事長は、「党内融和」の象徴的存在であると同時に、政策実現を現実的に考えられる政治家である。

 樽床伸二幹事長代理も「党内融和」と「現実的な政策実現」を両立できる人材だ。松下政経塾で野田首相の後輩である一方で、小沢グループの支援で代表選に出馬した過去もある。その上、国会対策委員長で野党と交渉した経験も持っているからだ。

 平野博文国会対策委員長は、自公両党との信頼関係欠如が懸念されている。それでも鳩山氏側近の平野氏が国対委員長となる意義は、鳩山グループに野党との交渉の難しさを痛感させ、現実を認識させることにある。