新刊『心に届く話し方 65のルール』では、元NHKアナウンサー・松本和也が、話し方・聞き方に悩むふつうの方々に向けて、放送現場で培ってきた「伝わるノウハウ」を細かくかみ砕いて解説しています。
今回の連載で著者がお伝えするのは、「自分をよく見せることを第一に考える話し方」ではなく、「聞いている人にとっての心地よさを第一に考える」話し方です。本連載では、一部抜粋して紹介していきます。

おじいさんやおばあさんに
話しかけるイメージでゆっくり話す

「早口」は、聞いている人が聞き取りにくいと感じる最大の原因の一つです。

 ではどれくらいのスピードだと早口にならないのでしょうか?

 話し方の本には、「話すスピードは1分で○○文字をめどに」と書いてあるものもあります。それ自体一つの目安であるとは思いますが、アナウンサーでも話すスピードはまちまちで、それ以上のスピードで話しても早口に聞こえない人がいたり、その逆もあったりで、客観的な数字で適切なスピードを表すことは難しい気がします。

 私が放送中実践していたのは、「近所のおじいさんやおばあさんに話しかける」イメージで話すことでした。
 この方法のよい点は、3つあります。

 1つめは、あたりまえですが、一般的にお年寄りに話していることを理解してもらうためには、ふつうよりゆっくり話そうという意識が誰にでも働くという点です。

 2つめは、具体的に聞いている人をイメージするため、ひとりよがりに話すよりも、聞き手の反応を意識しながら話せます。その分少しだけ間がとれるようになり早口になるのを防げます。

 最後の3つめは、お年寄りには小難しいビジネス用語やはやりことばは理解してもらいにくい傾向があるため、それらをわかりやすく丁寧に説明しようという意識が働き、それが結果的にゆっくり話すことにつながるという点です。

 多くの人のプレゼンテーションを聞いてきましたが、早口になりがちなのは、頭の回転が速い方、あるいはサービス精神が旺盛な方が多い傾向があります。彼らの頭の中には、少しでも多くのことを相手に伝えたいという思いが強いのです。その気持ちは大変素晴らしいと思います。しかし、せっかくの情報も相手が聞き取れなくては意味がありませんよね。聞き手がお年寄りであると想定していれば、情報を盛り込みすぎることを避けること
ができます。

 また、伝えたいという思いが強すぎたり、緊張したりしすぎても早口になりがちです。これって、少し自分を見失っている状態のときですね。そこでなんとか落ち着こうと一生懸命に思うと、よけい焦ってしまうことなんてありませんか?

 実は私も生放送の中でそんな状態になることが多々ありました。
 そんなときも、この「おじいさんやおばあさんに話すイメージ」は役に立ちました。
 自分が焦っている状態では、自分のスピードを客観的に把握するのは難しいものです。しかし、お年寄りがうなずくペースを意識し、それにあわせて話すようにすれば早口になるのを避けることができました。

 大切なのは、「あなたが言いたいように言う」ことではなく、「相手がわかるように配慮しながら話す」こと。その意識を強く持ち、自分の暴走を防ぐためのブレーキの役割になるのが、「おじいさんやおばあさんに話すイメージ」を持つことなのです。

* 心に届く話し方ルール *

お年寄りにわかってもらうように話そうとすれば、
自分勝手な話し方になるのをおさえられる

松本和也(まつもと・かずや)
スピーチコンサルタント・ナレーター。1967年兵庫県神戸市生まれ。私立灘高校、京都大学経済学部を卒業後、1991年NHKにアナウンサーとして入局。奈良・福井の各放送局を経て、1999年から2012年まで東京アナウンス室勤務。2016年6月退職。7月から株式会社マツモトメソッド代表取締役。
アナウンサー時代の主な担当番組は、「英語でしゃべらナイト」司会(2001~2007)、「NHK紅白歌合戦」総合司会(2007、2008)、「NHKのど自慢」司会(2010~2011)、「ダーウィンが来た! 生きもの新伝説」「NHKスペシャル」「大河ドラマ・木曜時代劇」等のナレーター、「シドニーパラリンピック開閉会式」実況など。
現在は、主に企業のエグゼクィブをクライアントにしたスピーチ・トレーニングや話し方の講演を行っている。
写真/榊智朗