星野 同族会社はどうしても一部が特権階級になりがちですから、その既得権を排除することです。役員も能力で評価し、給与も評価制度に基づき、フラットな組織をつくる。そこからなんですよ。私の場合は、一度は排除されて89年に星野温泉旅館を離れてしまいますが、当時の社員に「佳路は本気で変えようとしていたんだ」とわかってもらえたから、2年後に戻ってきたときは退任劇もその後の変化にプラスに働きましたね。

社名変更は採用のため。教科書流経営で見えたこと

多田洋祐・ビズリーチ取締役 キャリアカンパニー長

――経営スタイルにおいては、先代の系譜を見てきた影響はありますか。

星野 いえ、ほとんど影響は受けていないですね。父の時代は市場が活況でしたから、経営資源は乏しいながらも、社員を十分に雇えた時代です。私は真逆で市場が成熟し、資金調達はしやすくても、優秀な社員を探すのが難しくなっていました。

 雇った社員になるべく長く働いてもらうためにも、昔は「雇用者」と「経営者」の上下関係が分かれていましたが、現在は一体のチームとして事業に当たるようにしています。

 そこで大事になるのは「社員のモチベーションをいかに維持するか」です。特にサービス業はスタッフや社員が顧客とダイレクトに関わるので、モチベーションがとても重要です。

――いつ、それに気づかれたのでしょうか。

星野 代表に就いてすぐです。当時の課題は山ほどありましたが、先ほど話したように、お客さまがいらっしゃっても働き手がいないのが問題でした。

 95年に、星野温泉旅館から星野リゾートへ社名を変更したのもリクルーティングのためなんですよ。人材を集めるためにはイメージを変えなければなりませんでした。

 ただ、口説いて入社してもらっても1年や2年すると社員が辞めていく。90年代は獲得した社員が、いかに働き続けてくれるかを考える日々でした。

――まさに組織の神髄に触れる問題です。どういったプロセスで課題を解決していったのでしょうか。

星野 給与や休日の日数だけでなく、毎日の仕事を楽しくすることからモチベーションが生まれるはずだと考えたのが最初の課題でした。

 私は課題を解決するとき、理論に基づいた「教科書通り」の経営をしてきました。教科書のひとつであるヤン・カールソン『真実の瞬間』でも語られていますが、お客さまがサービスに触れる瞬間の積み重ねが企業の功績に結びついているのであれば、その瞬間をつくるスタッフのモチベーションは何よりも大切なはずです。だからこそ、それを維持するための組織文化とは何かを考えました。